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(2)「京言葉」で心通わせ

音を越える
京言葉の手話を発掘し、保存するろう者や手話通訳士の会合。活発に手話が飛び交う(京都市中京区・市聴覚言語障害センター)
 左手を水平に出し、右手でつくった手刀を左手の甲に当てて引き上げる。「ありがとう」。感謝の気持ちは通訳を介さず取材相手に伝えたいと、最初に覚えた手話だ。
 深いお辞儀とともにゆっくり上げると「ありがとうございます」。素早く手刀を動かし「おおきに」。表情や動きの早さで、意味を変えられる。
 手話にも「京言葉」がある。そう聞いて、京都市内で開かれた「『京の手話』の集い」をのぞいた。ろう教育発祥の地の京都には、昔ながらの独自の手話が多く残るという。だが、そうした手話を、標準手話の普及などでお年寄りも使うことが少なくなっており、ろう者や手話通訳士らが発掘や保存に努めている。
 集いでは京都の社寺を手話で表す高齢のろう者の映像が映し出された。次々と手話が紹介され、来場者がまねる。平安神宮は唇を指さす「赤」に続け、大きく「鳥居」。鞍馬寺は「てんぐの鼻」に、拝みながら木魚をたたく。まねをすると隣の女性が笑顔で左腕を右手でなで「上手、上手」と褒めてくれた。
 京都だけの表現はほかにもある。「黒」は、標準手話では髪を触るが、京では今も墨をするしぐさで表すことが多い。一般的に絵の具のチューブを絞る「色」は、中指を使って手のひらの上で顔料を溶かす動きだ。京のろう者は昔、伝統産業に従事する人が多かったという。手話にはろう者の生活や歴史が反映され、「方言」で心を通わせてきた地域性が表れる。
 手話を使えない人とのコミュニケーションの手段に「読話」がある。口の動きで発声された言葉を読み取り、補聴器で拾う音や場面、表情を総合して判断する。
 読話の学習ビデオを見せてもらった。音声がない場面。「都道府県の名前を発音します」の字幕。女性の口元がすぼまり、開き、横に広がり、つき出された。二度目で分かった。「北海道」。しかし、事前に何についてかヒントがなければ、さっぱり分からない。
 京都市聴覚言語障害センター職員、呉竹一人さん(四八)は読話で取材の質問内容をつかんだ。
 耳が聞こえなくなったのは、いつですか?「三歳の時で、原因は不明でした」。どうして分かったのですか?「スズムシの音に反応しなくなったのを親が気付いて」
 時々、聞き返された。習った通りに大きめに口を開けて、ゆっくり繰り返した。しかし、「一連の音として覚えているので、一音一音で切られると逆に分かりにくい」。筆談も交えた。
 「読話は一対一で、相手が五十センチ以内でないと声が聞こえにくく難しい」と話す。二十歳を過ぎ、ろう者とのつき合いが増えて手話も覚えた。
 取材を終えて呉竹さんは「感覚を集中する読話はやっぱり疲れる。だけど会話をするのは楽しい。難聴のことを少しでも分かってもらってよかった」と笑顔を見せた。

手話=コミュニケーション

【メモ】ろう者や難聴者のコミュニケーション手段には、手話や読話のほか、筆談や、第三者に話の内容をその場で文字にしてもらう要約筆記などがある。昨年12月には、手話を言語と認め、筆記などのコミュニケーション手段の権利の保障をうたった「障害者権利条約」が、国連総会で採択された。京都市右京区の全国手話研修センターで、手話通訳士の指導者育成研修や、ろう者らが集まり、「セレブ」などのカタカナ語を中心とする新語を確定させている。

【2007年8月8日掲載】