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5人目の家族

わが子と対面、号泣 水入らずの一夜
赤ちゃんが元気だったときのエコー写真。「忘れず、思ってあげることが一番の供養だと思うんです」。かおりさんはいつも携えている
 「おなかの赤ちゃん、亡くなってるって…」。大阪府寝屋川市の原田進一郎さん(42)は昨年11月、京都の勤務先で妻かおりさんからの電話を受けた。第3子の妊娠6カ月健診の日だった。「何かの間違い。心音が聞き取りにくいだけやろ」
 1カ月前の健診では異常はなかった。安定期に入り、「順調です」と言われるはずだった。二人で再び医師の説明を聞きに戻ったが、「原因ははっきりしないが、こういったケースはあります」。亡くなっているのは間違いではなかった。

複雑な「出産」

 母体に影響があるとして、かおりさんは訳の分からぬまま入院。陣痛促進剤を投与して翌日には「出産」することになった。
 分娩(ぶんべん)台に横になったとき、部屋の隅に置かれたベビーベッドに目がいった。
 「亡くなってると分かっていながら、出産の痛みに耐えなきゃいけない。生まれてくる赤ちゃんを思えばこそ頑張れるのに…」。複雑な気持ちを抱えた。
 出産直後、進一郎さんは少しためらったが、わが子と対面した。身長25センチ、体重290グラム。「小さいだけで、赤ちゃんそのもの」。思わず号泣してしまった。
 夫の見たこともない姿に驚き、かおりさんも愛児を見つめた。耳や足、おちんちんもあった。「女の子の方がいいなんて思っていたことを後悔しました。これから生きようとしていたんだって、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
 原田さん夫妻には小学生の一男一女がいる。「気持ちの上ではすでに『5人家族』になっていたんです」。二人は口をそろえる。

水晶のような骨

 かおりさんは赤ちゃんの火葬に立ち会うことを強く望んだ。夫の運転する車で、紙箱で眠る次男を抱いて火葬場に向かう途中、初めて悲しみが現実のものとしてこみ上げ、涙がとまらなかった。
 火葬を終えると、思いのほか骨が残った。小さくて水晶のように光っていた。家族みんなで残らず拾い集めた。
 骨つぼに入った次男は自宅で一泊した。家族が暮らす各部屋を案内され、みんなと一緒に寝た。進一郎さんは「無事に生まれて帰ってきたようで、悲しいけど、ちょっとさびしくないな」と思えた。
 遺骨は、進一郎さんの祖父と同じ寺に納められた。赤ちゃんが曾祖父と一緒にいると思えば、家族の気持ちも安らぐ。
 「出産と葬式を同時にするような、不思議な気持ちでした」。進一郎さんは死産に直面したときの戸惑いを、そう振り返る。それでも、赤ちゃんの姿を目にしたことで現実に向き合え、精いっぱい区切りを付けられたと実感している。
 もともと感情を出さず、身内が亡くなっても涙を見せなかったのが、涙もろくなり、家族や子どもたちが、かけがえのないものに感じられようになった。
 「5人目の家族」は戸籍には載っていない。「でも、存在しなかったわけではない」と進一郎さん。かおりさんも「あの子のおかげで命の大切さに気づかされた。これからも心の中で、ずっと一緒にいます」と話す。
 愛児の死は決して無意味ではない。二人は確信している。

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 死産数 厚生労働省の人口動態統計によると、2008年は総数が2万8177胎(死産率は出産1000に対して25.2)。うち、中絶などを除く自然死産は1万2625胎(同11.3)で、30年前のほぼ4分の1に減っている。

【2010年4月9日掲載】