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人工死産(下)

後悔しない人生に戻したい ネット通じ「ママ友」と交流
神戸六地蔵霊場巡りの朱印帳。ルミさんは夫とともに健太郎君の「命日」に合わせてお参りする。「亡くなった子にもしてあげられることがあるのは、親としてうれしい」
 あの決断は正しかったのだろうか−。2008年春に妊娠16週健診で赤ちゃんに重度の臍帯(さいたい)ヘルニアが分かり、人工死産を選んだ兵庫県のルミさん(38)=仮名=は、今も気持ちが揺らいでいる。
 「寿命が尽きるまで、なぜ一緒に頑張らなかったのか」「産んでいたらどうなっていたのか、もっと説明してほしかった」−。

選択に確信なく

 超音波検査など出生前診断が一般的になり、妊娠中期から胎児の異常が分かるようになってきた。妊婦は早期の対応ができる半面、過度の不安を感じたり、ルミさんのように突然「選択」を迫られることもある。その選択にみんなが確信を持てるわけではない。
 ルミさんがよりどころにしているインターネットのサイトがある。タイトルは「泣いて笑って」。胎児異常が分かり、妊娠継続か人工死産かの決断を迫られた人たちを支援しようと開設されている。
 「苦悩の末の決断に対して第三者がいいか悪いか言うべきではないと思う。当事者は必要以上に罪悪感を抱え込まないで」。代表の藤本佳代子さん(38)=長崎県大村市=は3月下旬、京都市中京区であった「メディ・カフェ@京都」という集まりで訴えた。
 流産や死産、新生児死…。赤ちゃんを亡くすことはこの上ない悲しみとしたうえで、問題を投げかける。
 「人工死産はそこに意思決定が伴う。それに対するケアのあり方は、あまり議論されていません。当事者と医療者の思いをつなげて、今後に生かしていきたい」
 ルミさんは今、「引きこもり」の状態だ。心療内科に2カ所通院したが、不安を和らげてくれるどころか、筋違いな質問をされて不快感だけが残った。
 友人たちにも苦しさを分かってもらえない。メールで知らせても、それっきり返事がない。「健太郎」と名付けた子のことを話題にすると表情をこわばらせる人もいた。
 「『もう1年がたったね』とか、さりげなく返してくれたらうれしいのに」
 最近は、サイトを通して知り合った、同じような体験を持つ「ママ友」との交流が支えになっている。亡くした子の思い出も存分に話し合える。
 中には、家族への気遣いから涙をこらえたり、「いつまでも泣いていたら成仏できない」と周りから非難された人もいると知った。

泣いてくれて幸せ

 ルミさんの場合、夫(39)が「健太郎は、お母さんがこんなに泣いてくれて幸せやね」と好きにさせてくれたのが、どれほどありがたかったか。
 逆縁を生きる。こんなに苦しい思いをするなら、妊娠する前に戻りたい−。夫にそうつぶやいたことがある。夫は正反対の受け止め方だった。
 「僕はわずかの間でも父親の気持ちになれて幸せだったから、戻らなくてもいい」
 今春、健太郎君とわかれて二度目の「命日」。ルミさんは、記者にメールをくれた。「桜が健太郎に重なって、会いに来てくれたように感じています」
 わが子の死とともに自分の一部も死んだという。だが、このつらい経験をする以前から、悔いのないように生きたいと、いつも思っていた。「後悔しない人生に戻したい」。その答えを探している。

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 「出生前診断の告知のあり方と自己決定の支援について考える 泣いて笑って」 http://www15.ocn.ne.jp/^nikomama/

【2010年4月23日掲載】