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悩みや悲しみ、支える態勢を グリーフケアの模索も
欧米では出生前超音波診断は厳密に運用されているという。パネル討論では、日本での課題をさまざまな立場から論じあった(5月29日、京都市左京区・京都国際会館)
 多くの医師たちが詰めかけた。5月末、京都国際会館(京都市左京区)で開催された「超音波で胎児をどこまで診るべきなのか」と題したパネル討論。日本超音波医学会・学術集会の一こまで、胎児の超音波診断について、さまざまな立場から課題を指摘してもらう試みだった。
 「胎児の何を、いつ、どこまで診るのかについて、一定の基準はない。異常に気付いたとき、両親にそれを告知せざるを得ない」。産婦人科医が現状を報告した。

少ない説明

 日本の医療機関では妊婦健診のたびに、胎児の様子を画像で示すのが一般的で、わが子の順調な成長を確認する機会として受け止められる。だが、時として胎児異常が判明する瞬間ともなる。早期治療に結びつく一方、状態によっては人工死産(人工妊娠中絶)にもつながる。本来は慎重を要すべき場面だ。
 「疾患について説明を受けても、気持ちが動揺し、時間も限られた中では理解できない。その子を含めた今後の生活がどうなるのか、あまりにも説明が少ないのが現状」
 赤ちゃんを亡くした母親の立場から藤本佳代子さん(長崎県大村市)が投げかけた。胎児異常を告知され、妊娠継続か人工死産か、選択を迫られた人たちを支援しようと、2004年からインターネットサイト「泣いて笑って」を開設。これまで約4千件の相談が寄せられたという。
 「処置の直前にベッドからメールで不安を打ち明ける人もいる。医療者がほんの少し寄り添ってくれたら、お母さんたちの悲しみも違ったものになる」
 人工妊娠中絶は、母体保護法で、身体的・経済的な理由で母体の健康を著しく害する恐れがある場合に限ると規定される。だが現実は、胎児に重篤な病気が分かった場合などにも行われている。
 妊産婦を取材してきた新聞記者は「深刻な告知をされ、選択を迫られる重大な局面にもかかわらず、カウンセラーなどのプロがいないと感じた。悩みを打ち明けやすい支援態勢があれば」と話した。
 また、倫理学者は「医師は科学者と同時に『人間学者』であるべき。妊娠、出産という人間の尊厳にかかわる行為に寄り添う姿勢が必要」と述べた。
 会場からも発言が相次いだ。「超音波診断は胎児の異常を見つけて治療するためなのに、排除の論理ばかり出ていないか」「人工妊娠中絶を選択した人は法律について説明を受けているのか」−。

医師も立ち止まって

 この3カ月前。国立成育医療センター(東京都)で開かれた日本SIDS(乳幼児突然死症候群)学会の学術集会で、「乳児死亡とグリーフケア」をテーマにした発表が盛り込まれた。グリーフケアは、悲嘆に暮れる人を支えることをさす。
 東京で遺族の自助グループの代表を務める助産師は、遺族に臨床心理士を紹介するなど精神面のフォローが必要だと説いた。熊本で自助グループを運営する母親は、医師に支えられながら活動してきた15年間を振り返った。
 同センターで家族と医療者の橋渡し役を担う臨床心理士は、医師に対するケアにも言及した。「医師は日々忙殺されているが、少しでも立ち止まり、自分がかかわった子どものことを考えてもらう場がつくれたら」
 胎児の異常を告げられたり、子を亡くした家族へのケアが求められている。答えはすぐには出ない。が、一部の医療従事者が気付き、行動を始めている。

【2010年6月11日掲載】