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グリーフケア

立ち直る大きな力になると信じて 退院後に集う場も描く
新生児室で働く助産師たち。赤ちゃん一人一人の成長を見守り、よりよいケアを常に模索している(京都市伏見区・中部産婦人科)
 「証しを残すことで、存在を確認し、癒やしにもつながると思います」−。京都市伏見区の中部産婦人科は最近、死産となった家族向けに「赤ちゃんのためにできること」と書いた紙を用意した。
 助産師の手作りで、写真やへその緒などを残したり、折り紙や花などを贈り物にできることを示す。悲しみをサポートするホームページや書籍もまとめている。
 中部健院長(44)は「看護師や助産師から『こうしたら』と、どんどん声が上がってくる。患者一人一人としっかり向き合うのが基本だが、死産はやはり特別」と語った。
 妊娠しても必ずしも無事に出産できるとは限らない。予期せぬ現実に直面したとき、医師は夜間でも時間を設けて家族に説明を尽くし、動揺する母親には別室で休んでもらう。
 昨年秋には、赤ちゃん死のケアの必要性を提唱する大阪の助産師を招き、講演してもらった。受付や事務の担当者らも含め、全職員で話を聞いた。企画した看護師の前田扶美代さん(49)は「求められるケアについて、働くみんなが共有すべきだと思う」と話す。

強制ではないか

亡くなった赤ちゃんのための手作りの服(京都市左京区・日本バプテスト病院)
 現場では助産師を中心に、スタッフが家族の意向をくみながら、赤ちゃんの足形を残したり、もく浴を勧める。「ふれあいが強制になっていないか、提案ばかりが先走っていないか。いろんな意見が出て、考え直しです」と前田さんはいう。
 左京区の日本バプテスト病院のNICU(新生児集中治療室)は伝統的に「グリーフケア」に力を入れる。
 重い病気やハンディと闘う赤ちゃんは保育器で育ち、母親よりもスタッフと過ごす時間が圧倒的に長い。みとりの場面が訪れたときには「カンガルーケア」を勧める。母親や父親ら家族が初めてわが子を抱き、ぬくもりを感じる。泣いたり、笑顔を見せたり。かけがえのない時間になる。
 日々の成長を家族に伝えるためにスタッフが記録した面会ノートや写真は、医師や看護師がメッセージを添えて渡す。「長い間よくがんばりました」と。

服を手作り

 母乳を赤ちゃんの口につけたり、お化粧をすることも提案する。「わが子に何かをしてあげられたという経験は、悲嘆からの回復に大きな力になるはず」。助産師の伊庭有紀奈さん(34)はそう信じる。
 小さな赤ちゃんのために、ソーシャルワーカーを通じ、ボランティアグループのメンバーたちが服を手作りしている。牧師立ち会いの「お別れ会」もあり、家族が棺(ひつぎ)に花を添え、賛美歌を歌う。母親はしっかりとわが子を抱いて病院を後にするという。
 亡くなった症例は、スタッフ間で経過やケアを振り返る機会を設ける。看護師の北村多江子さん(44)は「担当した赤ちゃんが亡くなると私たちも落ち込む。みんなで気持ちを共有することで立ち直れる」という。
 退院後はNICUとは別部門の産科外来の医師が、母親の健診時に精神面をフォローしているが、悲嘆が続く様子を漏れ伝え聞くことがある。
 今、伊庭さんたちが課題にあげるのが「退院後のケア」。NICUを死亡退院した子の家族が病院に集い、治療に携わったスタッフを交えて、子の思い出や心境を語り合う−。そんな場づくりも思い描いている。

【2010年7月9日掲載】