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過疎に生きる(上)

公共交通がない 募る切実さ 採算が壁に
久美子さんに付き添われて車に乗る酒井利栄さん。多い年で1.5メートルの積雪があるという(綾部市老富町大唐内)
 四方は山。綾部市老富(おいとみ)町の大唐内(おがらち)。由良川につながる清い水が集落を流れる。早朝、一人暮らしの酒井利栄さん(76)宅を福井県高浜町に住む長女の森本久美子さん(49)が訪れた。酒井さんは高浜から二十分かけて迎えに来た久美子さんのマイカーで約一時間かけ、舞鶴市の接骨院に通う。

遠いバス停

 大唐内に公共交通はない。一日七便が綾部市中心部に向かうバス停「於身(おおみ)」までは約四キロもある。食料や日用雑貨は、週に一度訪れる久美子さんが一週間分、買いだめすることが多い。酒井さんは「バスが来れば、自分でまちに行けるのに」。
 老富町市茅野(いちがや)の農業村上龍男さん(80)、ちえさん(75)夫妻は今年二月、公共交通の必要性を痛感した。龍男さんが舞鶴市の病院に一カ月間、緊急入院。車の運転ができないちえさんは、最も近い福井県おおい町のバス停まで約五十分かけて急こう配の府・県道一号を歩き、バスと電車を乗り継いで計二時間ほどかけ、週に何回か看病に通った。「大変でした。暖冬で雪がなかったのが幸いしましたが…」。龍男さんも「高齢で車の運転にも自信がなくなってきた」とため息がまじる。

進む高齢化

 老富町を含む綾部市東端の奥上林地区は市の五分の一の面積を占める。しかし人口は七百人を切り、六十五歳以上の高齢化率は60%を超えた。大唐内には十六世帯二十三人が住み、高齢化率74%、市茅野は五世帯十人で同率100%だ。綾部市は大唐内、市茅野など過疎化が激しい東部の五集落を「水源の里」と位置づけ、再生を目指している。
 奥上林地区には病院や介護施設への通所に限り、住民ボランティアによる自家用車での移送サービスがある。一週間前に予約すれば市内の病院まで二千円の送迎。老富町の移送ボランティアで大唐内自治会長も務める西田昌一さん(66)は「タクシーなら昼間片道八千五百円はかかる。地区全体で十人のボランティアの平均年齢も約七十歳と高齢。若い人が増えてほしい」。
 二〇〇五年四月、旧京都交通の経営破たんに伴い、綾部市が運行を引き継いで「あやバス」が誕生した。於身(光野町)までのバス路線は維持されたが、昼間は予約制だ。奥上林地域振興協議会で住民による自主運行バスを検討。必要経費は年間約三百三十万円、府と市から約二百万円の補助を見込んだが「運賃収入が得にくい」「赤字が出れば地元負担は無理」などと地区全体の合意は得られず、計画は宙に浮いた。
 四方八洲男市長は「バス運行で赤字を垂れ流すわけにはいかない。行政の負担にも限度がある。福祉タクシーの駐在所をつくるのも一つの方法と思うが、何にしても若い人が集落に入ってくれる必要がある」と話す。過疎地のバス運行は採算がとれず、自治体にも赤字を抱える余裕はない。
 それでも、高齢化の中で、公共交通に対する住民の切実さは増すばかり。西田さんは「バスは必要やけど、利用者が少なく、経費が心配。ほんとに難しいんです…」。
【2007年10月17日掲載】
 過疎高齢化で存続が危ぶまれる限界集落が全国に広がっている。都市と地方の格差が言われる中で、このままでは「ふるさと」が次々と姿を消すとの懸念も出ている。集落の再生を目指し、18日から綾部市で開かれる全国シンポを前に、効率化社会の格差の象徴とも思える限界集落の暮らしをみた。