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(4)移住の条件

「活力」受け入れに課題
肩を寄せ合うように家々が立つマタギ(猟師)の集落。夏にもかかわらず、かなたの山肌に残雪が見える(長野県栄村。梶井照陰さん撮影)
 約八百件の不動産情報を掲載した月刊誌。実は都会の移住希望者に向けた「田舎暮らし指南書」だ。住宅の間取りや農地の面積といった物件情報に加え、移住生活の体験談も紹介している。
 「過疎地はゆとりある空間ととらえるべきだ。都会の人が移住し、地域でいい役割を果たし、農山村も元気になってほしい」
 月刊誌発行人で移住希望者の仲介をしている「ふるさと情報館」代表の佐藤彰啓さん(64)が力を込める。
 過疎高齢化に悩む自治体にとって、U、Iターンなど移住者の受け入れは地域活性化策の柱の一つだ。中には、和歌山県那智勝浦町の色川地区のように住民の約三割を移住者が占める例もある。
 ただし課題は多い。農山村では、所有者が亡くなったり、都市に出たために空き家が増えているが、維持にも撤去にも金がかかるため、朽ちるに任せている例が少なくない。
 「空き家は大切な社会的資源だが、すでに人が住めない廃屋が三割もある。放置すれば移住者があこがれる美しい環境は守れない。自治体にとっても大きな問題だ」と佐藤さんはいう。
 移住者と農山村の間のミスマッチもある。移住を希望する都市住民は、おいしい水や空気など自然的で農村的で田舎的なものを求めているが、農山村の側はそのニーズに気づいていない。
 「都会的な区画分譲地を勧められても移住希望者は住みたいと思わない。逆に移住する側も田舎の暮らし方を事前に学ぶべきだ」
 佐藤さんが仲介を始めて十八年。これまでに三千世帯の移住を支援してきた。そして昨年から団塊世代の大量退職時代に入った。
 「農山村は人材不足だ。都会の経験を生かす場はたくさんある」と佐藤さん。健康茶の生産など新事業を始めたケースもあるし、地域ボランティアに生きがいを見いだす人も多い。「田舎で六十歳は現役」との声はもはや珍しくない。「ライフサイクルに合わせて暮らしの場所を変える。それが成熟した社会の在り方ではないか」。佐藤さんの持論である。

【2008年5月5日掲載】