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英、EU離脱へ  孤立主義の広がりが心配だ

 英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票で、離脱派が勝利した。
 残留派を率いたキャメロン首相は辞意を表明した。英国のみならず、国際社会や世界経済に混乱がさらに広がる恐れがある。
 英国にはかつての「大英帝国」の栄光を背景に、国の独立と主権を守ろうという意識があり、保守党を中心に欧州に国家のような強い権限を持つ組織ができることに警戒感があった。欧州の単一通貨ユーロに参加していないのもこうした事情によるとされる。
 国民投票で保守党のジョンソン前ロンドン市長を中心とする離脱派は「主権を取り戻す」と訴えることで、英国民の反EU感情を大きなうねりにした。
 離脱派は具体的には、EUの「域内移動の自由」原則を利用して東欧やイスラム圏から英国へ流入する移民が雇用や福祉を圧迫していると主張した。多額の拠出金を無駄と指摘し、EUの官僚機構による細かい規制が英経済の成長力をそいでいると強調した。
 これに対し、同じ保守党のキャメロン氏をはじめとする残留派は、離脱すれば人口5億人の市場から閉め出され、貿易や投資が打撃を受けると訴えた。英政府は2年間で国内総生産(GDP)が最大6%減ると試算し、国際通貨基金(IMF)や中央銀行のイングランド銀行なども離脱の経済リスクを指摘した。
 英国離脱によるEUの弱体化を懸念するドイツのメルケル首相をはじめ、オバマ米大統領や安倍晋三首相も残留支持を表明した。

 深刻な国民の「分断」

 残留派の女性下院議員コックス氏が殺害される事件が発生し、残留派の勢いが一時回復したが、離脱論の高まりを抑え込むことはできなかった。
 英政府は今後、EUとの手続きに入るが、条件など交渉に時間がかかり、実際の離脱は数年後になる見通しだ。
 離脱派と残留派が国民を二分して激しく争ったことで、内政の混乱は必至だ。政権を担う保守党は賛否で真っ二つに割れた。まず国民の分断を修復し、政治の混乱を収めることが必要だ。
 国民投票で離脱派優位が伝わると、比較的安全な通貨とされる日本円が急騰した。24日の東京円は一時1ドル=100円を突破。円高による企業業績悪化などの懸念から日経平均株価は一時1300円超も急落した。
 市場の連鎖的な混乱が続けば、世界経済全体を圧迫しかねない。日本政府や日銀は欧米の金融当局と連携して事態の沈静化に努めるべきだ。
 日本と英国の経済的な結びつきは強い。日本からの2014年の投資額は約1兆円に達している。英国に進出している日本企業は約1100社で、現地で14万人超を雇用している。

 進出日本企業に影響

 日本の主力産業の自動車メーカーでは、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダが英国に車両やエンジンの工場を持ち、EU市場などへの輸出拠点としている。離脱によって関税の仕組みが変われば影響は大きい。
 ロンドンの金融街「シティー」周辺には日本の主要な金融機関の拠点があるが、取引の利便性が低下するかもしれない。在英の日本企業の撤退や事業見直しが進む可能性がある。
 EUにとっての打撃はさらに大きい。
 英国は米国、中国、日本、ドイツに次ぐ世界第5位の経済大国で、EU28カ国の域内総生産の約2割を占めている。EU内ではフランスとともに国連安全保障理事会の常任理事国であり、離脱すればEUの経済力だけでなく、政治力の低下も避けられない。
 1993年の正式発足以来、拡大の一途だったEUから加盟国が離脱するのは初めてとなる。各国で反EUを訴える極右などの勢力拡大につながる恐れがある。

 ドミノ回避できるか

 フランスの極右政党、国民戦線は2014年の欧州議会選で躍進し、国内でも勢いを増している。マリーヌ・ルペン党首は英国のEU離脱を支持し、17年のフランス大統領選で自身が当選すれば、英国と同様の国民投票を行うとしている。
 欧州議会で国民戦線と会派を組むオランダの極右、自由党も支持率を伸ばしている。ドイツでは3月の州議会選で、難民らの受け入れに反対する右派政党「ドイツのための選択肢」が躍進した。
 2度の世界大戦の反省から、欧州で戦争の惨禍を繰り返さないために統合を進めてきたEUにとって、英国に続く「離脱ドミノ」を食い止められるかが正念場と言える。加盟国の事情に配慮しつつ、難民流入やテロ対策、経済格差の是正などで成果を上げて求心力を高めることが重要だ。
 米大統領選では「米国が第一」を掲げて排外的な発言を繰り返す実業家トランプ氏の共和党候補指名が確定した。自国の都合を最優先する孤立主義がさらに拡大すれば、世界の不安定化は不可避だ。危うい世界の潮流に日本も無関係ではいられない。

[京都新聞 2016年06月25日掲載]

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