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駆け付け警護  立ち止まって再考せよ

 稲田朋美防衛相が、安全保障関連法に基づく自衛隊の新任務の訓練開始を表明した。国連平和維持活動(PKO)に関する任務をはじめ、他国軍の後方支援、平時からの米軍艦船などの防護、海外テロ発生時の邦人保護・救出などを想定した訓練が順次始まる。
 国民の不安の声を押し切っての安保法成立から約1年。政府は今夏の参院選で議論を再燃させまいと、訓練を先送りしてきた。この間、自衛隊の武器使用基準の見直しなどが内々に進んだ一方、安保国会で指摘された多くの課題は手つかずのままだ。
 とりわけ当面の焦点であるPKO派遣部隊の新任務については、安保法をめぐる憲法論争に時間を費やしたこともあって、説明も審議も不足している。政府は「駆け付け警護」などの新任務を今後派遣する部隊に付与する方針だが、立ち止まって再考すべきだ。
 国連やNGOの職員が武装集団に襲われた際、武器を持って助けに行く「駆け付け警護」は、PKO部隊に現場で瞬時の判断を迫る難しい任務だ。警告射撃などが新たにできるようになるぶん、相手を刺激して本格的な戦闘に発展する危険性もある。市街地での混乱した状況では、誤って民間人を撃つ恐れも否定できない。
 安保国会では、軍法をもたない自衛隊が海外の戦闘で過失を犯した場合の外交への影響や、隊員の法的地位の不備が指摘されたが、対策は置き去りだ。訓練をどれほど積んでも不測の事態が生じる可能性はある。多様な場面を想定した訓練をすればするほど、隊員が向き合わねばならないリスクの深刻さが明らかになろう。
 政府はこれまで、安保法で自衛隊員のリスクが高まることはないと繰り返してきた。一方、紛争地の状況は刻々と変化している。国連の南スーダンPKOも当初は国づくり支援が目的だったが、3年前に新たな内戦が勃発して市民保護が最重要任務となり、今年7月に戦闘が一時拡大した際には中国人のPKO隊員が巻き込まれて死傷している。
 そもそも違憲の疑いが拭えない安保法である。自衛隊員や日本の平和主義が傷つくリスクを曖昧にしたまま、訓練を進め、新任務の付与への地ならしをすることは容認できない。
 国際平和のための活動のうち、日本が担うべき役割は何か。取り得る手段とリスクの範囲はどうか。9月には臨時国会が始まる。平和主義のあり方をいま一度、与野党で議論しなければならない。

[京都新聞 2016年08月26日掲載]

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