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環太平洋連携協定(TPP)に日本が参加すると、畜産、酪農を含む国内農業は壊滅的な打撃を受けると声高に叫ばれている。 そのさなかの先月、滋賀県の官民でつくる近江牛輸出促進実行委員会が、シンガポールを訪れ、県の誇るブランド産品・近江牛の魅力を大いにアピールした。 輸入品の攻勢にさらされそうな日本の農産品が、逆に海外に打って出ようという動きだ。 近江牛は、江戸時代にみそ漬けが将軍家に献上された歴史を持つ。霜降りの度合いが高く、とろけるようなおいしさは、松阪牛、神戸牛と並び称されている。その「実力」を考慮すれば輸出は当然の流れだが、TPPの逆風に敢然と立ち向かう姿勢を評価したい。 本格輸出は、昨年6月のマカオ向けからスタートした。 牛肉の輸出には、厚生労働省や輸出先の認定が必要となる。県では、第三セクターの運営する「滋賀食肉センター」(近江八幡市)が4年前に新設され、衛生設備などの認定要件が整ったことから、輸出が実現した。 今年10月末までの輸出実績は、約220頭に上る。輸出先はマカオ、シンガポール、タイで、8割以上がシンガポールで消費されている。本年度は、年間200頭の目標を上回る勢いである。 シンガポールで関係者を招いた試食会では、用意した「しゃぶしゃぶ」や「あぶりずし」が瞬く間になくなったという。生産者らは自信を持ってよい。さらに輸出先を広げていくべきだ。 輸出の狙いを、嘉田由紀子知事は「国内市場はだんだんと小さくなっていくので、海外で和牛市場を開拓したい」と説明する。 今後、日本国内では人口減が進むのだから、ブランドを維持し、生産を増やすには、輸出を拡大するしかあるまい。成長著しいアジアの富裕層をターゲットとする戦略も、有効とみられる。 日本は1991年度に牛肉の輸入数量制限を撤廃して自由化に踏み切り、2000年度以降は関税をほぼ半分にした。この措置で生産農家は激減したが、国内の生産量はそれほど減らなかった。 残った農家は、経営規模を拡大し、効率化を図ることで生き延びたとされる。滋賀県では、一戸当たりの飼養頭数が、全国一の北海道に次いで多い。自由化の進展に適応する素地がありそうだ。 黒毛和牛の高級ブランドは米国産や豪州産と競合しておらず、日本がTPPに参加しても残っていくとの見方がある。そうなれば、ほかの産品の生産者にも、勇気を与えることになるだろう。 この際、近江牛の可能性を信じたい。「攻撃は最大の防御」というではないか。
[京都新聞 2011年12月05日掲載] |