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乗客106人が犠牲になった尼崎JR脱線事故で、業務上過失致死傷罪に問われた前JR西日本社長山崎正夫被告に、神戸地裁は無罪の判決を言い渡した。 事故は予見できず、結果を回避する義務もなかったとの判断だ。 社内の安全対策を総括する鉄道本部長の立場にあった前社長ですら事故を予見できなかったとの認定は、JR西の事故防止に関する責任の所在がいかにあいまいだったかを照射しているようにみえる。 JR西関係者は、判決が含む意味を真摯(し)に受けとめ、具体的な再発防止策につなげてほしい。 判決では、現場カーブの危険性について前社長へ進言はなく、自動列車停止装置(ATS)設置も義務でなかったと、予見可能性と結果回避義務をともに否定した。 一方、JR西の安全対策が期待される水準に達していなかったとも指摘。「企業の責任は個人の責任への判断に影響しない」と、前社長が無罪でもJR西の企業責任は免れないとの考えも示した。 ただ、裁判そのものは、遺族や被害者らが望んだ事故の真相究明とはほど遠い展開だった。 事故の直接原因は運転士が制限を超える速度でカーブに進入したためだが、運転士が急いだ背景にあった懲罰的な「日勤教育」について、経営陣が実態をどう認識していたかは解明されなかった。 前社長が法廷で危険性の認識を繰り返し否定したことも、遺族との心理的な亀裂を深めた。 事故の責任を問う業務上過失致死傷罪が個人の責任しか問えない以上、前社長が自己弁護に終始することは予想できたことだ。 重大事故はさまざまな要因が複合している。事故の責任を個人に集中させて罰する仕組みでは、組織的な問題点まで手が届かない。真相に迫れるかどうか疑問だ。 個人に限らず、企業や組織の責任を問い、安全管理や意思決定の過ちを追及できるような新たな法整備が必要ではないか。 刑事責任を審理する刑事裁判とは別に、個人の責任を問わない前提で再発防止のための原因解明を進める新たな事故調査機関の設置も具体化する時期にきている。 JR西にとっては、判決で指摘された安全対策を充実させ、信頼回復を図ることが喫緊の課題だ。 事故後、同社は現場でのミスや危険を感じた場所の報告をもとにした安全基本計画をまとめた。 しかし、前社長の起訴後、車掌が電車の防護無線からヒューズを抜き取るなど安全への感覚を疑わせるような不祥事が相次いだ。 前社長の無罪判決は出たが、安全対策に終わりはない。JR西はこれまで以上に事故防止の取り組みを充実させ、鉄道事業者としての社会的責任を果たしてほしい。
[京都新聞 2012年01月12日掲載] |