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派遣法見直し  労働者保護の視点ない

 派遣社員ではなく、できれば正社員として働き、生活を安定させたい。働き手のこんな願いに耳をふさぎ、雇用全体までを不安定にする恐れすらある。
 労働者派遣制度の見直しを進めていた厚生労働省が、労働政策審議会の部会に報告書の骨子案を示した。企業にとって現在は最長3年となっている派遣受け入れ期間の上限を廃止し、3年ごとに労働者を入れ替えれば、同じ職場で継続的に派遣社員を利用し続けることが可能になるのが主な内容だ。
 これでは、派遣制度を長く活用したい企業や派遣会社にとって大幅な規制緩和になるだけで、職場では正社員の派遣社員への置き換えが広がってしまう。
 厚労省は年内にも報告書をまとめ、年明けの通常国会に労働者派遣法の改正案を提出するという。労働者を守る視点のない中身で、労働組合側に強い異論がある。
 企業側の派遣制度の使い勝手を優先した制度の見直しは一方的に過ぎる。現行法は民主党政権下で規制を強める方向で改正され、施行されてわずか1年あまりしか経過していない。法改正を急がず、さらに慎重な審議を求めたい。
 不況が長引くなか、パートやアルバイト、派遣社員などの非正規労働者は2千万人を超え、働く人全体の4割近くまで増えている。このうち137万人が派遣社員とみられ、その4割が将来は正社員として働くことを希望している。
 現行法では、無期限に派遣が可能なのは、通訳や秘書など26種の専門業種に限定される。そのほかの一般業務は原則として1年、最長で3年に制限している。
 見直しでは、派遣労働者に任せる業務の範囲と期間が焦点となった。専門業務かどうか区分が分かりにくいことが問題となった。
 骨子案は、専門業務かどうかの区分を廃止し、どんな業務も1人の労働者が同じ職場で働く場合の期限を3年と規定した。ただ、働き手を代えれば、労組の意見を聞くことを条件に、どんな業務も労働者を交代させて3年更新を延々と継続することが可能になる。
 労使協議の仕組みは形式的で、仮に労組側が反対しても聞き入れるかどうかは企業側に委ねられる。派遣制度の際限ない拡大に対して制度的な歯止めがないに等しい。
 非正規労働者が増大することにより、戦後の社会を安定させてきた分厚い中間層が、さらに失われることが何より心配だ。
 安倍晋三首相が好んで口にする「世界で一番、企業が活躍しやすい国」よりも、国民は「世界で一番、働く人が活躍しやすい国」になることを求めている。

[京都新聞 2013年12月14日掲載]

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