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ヘイトスピーチ  対策に英知を集めよう

 国連の人種差別撤廃委員会が日本に対し、特定の人種への民族差別をあおる「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)への懸念を表明し、適切な対処を求める勧告を出した。自民党も対策を検討するプロジェクトチーム(PT)を設けて議論を始めた。
 7月には、京都市内の朝鮮学校前で「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が行ったヘイトスピーチの違法性が問われた訴訟で、大阪高裁は約1200万円の賠償と学校周辺での街宣禁止を命じた一審の京都地裁判決を支持し、控訴を棄却した。根拠となったのは日本が批准する国連の人種差別撤廃条約である。
 国際社会の常識からみても、もはやヘイトスピーチは野放しにできない。国、地方、司法が英知と力を集めて、差別的な表現をなくす取り組みを進めねばならない。一方、法規制については地に足をつけた慎重な議論が必要だ。
 先月末に開かれた自民党のPT初会合では、高市早苗政調会長(当時)がヘイトスピーチだけでなく、国会周辺での抗議活動まで取り上げ、「(大音量のため)仕事にならない状況がある。仕事ができる環境を確保しなければいけない。批判を恐れず、議論を進める」と述べた。昨年11月には、石破茂党幹事長(同)が自身のブログで特定秘密保護法案の反対運動について「絶叫戦術はテロ行為とあまり変わらない」と記した。
 その後、両氏とも釈明したが、とんでもない認識である。政治に対する抗議デモは、憲法が保障する言論や集会の自由に基づく正当な権利であり、表現の手段だ。民族差別を助長するヘイトスピーチとはまったく次元が異なる。同一視する見識を疑う。
 内閣改造では両氏がそろって入閣した安倍政権である。テロ対策などを名目に特定秘密保護法を強引に成立させた「実績」もある。よもやヘイトスピーチの法規制を口実に、拡大解釈をすることがないようクギを刺しておきたい。
 大阪の橋下徹市長は市人権施策推進協議会(会長・坂元茂樹同志社大教授)にヘイトスピーチ対策を諮問し、被害者による民事訴訟を支援することも検討する。一考に値しよう。実際、在特会などを個人で提訴する動きも出ている。
 民事、刑事の現行法での対応を徹底する一方、政府は韓国や中国との関係改善を急ぐべきだ。ヘイトスピーチだけでなく、ネットや書店にあふれる「嫌韓・反中」の言説の裏にある偏狭なナショナリズムを抑える流れを作りたい。

[京都新聞 2014年09月08日掲載]

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