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自転車ライフ  まちづくりの真ん中に

 滋賀県の近江鉄道は、自転車のまま電車に乗れる。というので、先週の日曜日に出かけた。
 揺れる電車の中で自転車を支えて、70代の男性が座席に腰掛けていた。1日おきに駅までペダルをこいで、入院中の奥さんを見舞いに行く。「便利やな」と喜んでいた。
 40代のサラリーマンが自転車を押し乗ってきた。食事で遠出するという。
 近江鉄道では「サイクルトレイン」と呼んで、2002年から運行している。本線と多賀線で、自転車持ち込みは無料。ママチャリの主婦が買い物に使うなど、地域の生活に定着している。これからの季節、サイクリング客が増えるという。
 ドイツの列車で、座席のない車両に自転車が乗り込むのを見たことがある。欧州では自転車が優遇されている。「世界一の自転車都市」を自任するデンマークの首都コペンハーゲン。自転車中心の交通政策で、自転車の専用レーン・専用道が延び、電車に自転車を持ち込める。
 「健康」と「環境」が自転車政策のキーワードだ。
 一方、日本の自転車への風当たりは強い。歩道での無謀走行でひんしゅくを買う始末だ。
 とはいえ、自転車には健康、環境だけでなく、心豊かな生活、心地よいまちをもたらす潜在力があるはず。自転車の良さを引き出す知恵を、もっと考えてはどうだろう。
 今年1月、京都市は自転車総合計画を見直す答申を受けた。「世界トップレベルの自転車共存都市」の実現を掲げている。これまで邪魔な放置自転車の対策に力を入れていたのを、自転車が快適に走れる環境づくりへと転換するというわけだ。
 「安心」「快適」を尺度に、道路整備と走行ルールを「見える化」する。ただ、自転車の専用道や専用帯の整備には、一定の幅が必要なため、市街地の狭い道路事情では多くを望めないのが現状だ。
 そこで車道の左側を走るよう導くカラーゾーン(自転車走行推奨帯)や図像(ピクトグラム)を設けることにしている。車道左側走行が安全との実証に基づくが、利用者の安心感と乖離(かいり)していないか。道路改良や自動車通行の抑制を、時間がかかっても進める必要があろう。
 自転車は「車両」であって、車道を走る。この大原則の再認識こそ、見直しの眼目だろう。
 見直し議論に参加したNPO法人自転車活用推進研究会の多賀一雄さんは、英国留学中に歩道を自転車で走って叱られたことがある。「歩道を走るなんて日本ぐらい」と話す。
 そもそも自転車の歩道走行は、1978年の道交法改正で事故多発への緊急措置として一部歩道で可能となって増えた。
 京都市は総合交通戦略「歩くまち・京都」を掲げ、脱クルマ中心社会の実現をうたう。ただ、自転車に触れる部分が少ない。歩行者・自転車・自動車の優先順位を明確にした体系的な施策が求められよう。
 多賀さんは、自転車で走っていると季節や気候を感じ、まちや人とふれ合えるという。
 自転車ライフを楽しめるまちにしたい。

[京都新聞 2015年03月01日掲載]

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