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熊本再審決定  証拠開示の重要性示す

 熊本県松橋町(現宇城市)で1985年に男性が殺害された松橋事件の再審請求審で、熊本地裁が再審開始を認める決定をした。
 事件は、宮田浩喜さん(83)が知人を殺害したとして殺人罪の容疑で逮捕され、捜査段階で犯行を自白。一審の公判途中から否認に転じて無罪を主張したが、自白が決め手となり、懲役13年が確定した。しかし、再審請求審で弁護団が提出した123点の「新証拠」により、自白の信用性が揺らぎ、「有罪認定に合理的な疑いが生じた」と、地裁が判断した。
 多くの再審事件と同様、自白偏重の捜査や裁判の危うさが再び浮き彫りになったといえよう。さらに「新証拠」は、検察の捜査や証拠開示が適切だったかどうかにも大きな疑問を投げかけた。
 宮田さんは、凶器の小刀に血が付かないようシャツの袖を切った布を巻き、布は犯行後に燃やしたと自白した。ところが、弁護団は検察が保管していた証拠から、シャツ片を含む布片5枚を発見。つなぎ合わせると完全な形に復元され、決定は「布きれが燃やされておらず、血液も付いていないことが判明した」と認定した。
 弁護団は、小刀の形状と被害者の傷痕が一致しないとする鑑定書も提出した。自白内容とそれを裏付けるはずの物的証拠が矛盾する以上、再審開始の決定は当然だ。
 しかし、検察は物証を入手していたのに、なぜ捜査を尽くさなかったのかという疑問は消えない。当時の裁判では、シャツ片を証拠として提出しておらず、弁護団は「証拠隠し」だと非難している。自白に反し、捜査側にとって不都合な証拠に目をつむっていたと断罪されてもやむを得まい。
 自白偏重への反省から、客観的証拠が重視される中、今回の決定は証拠開示の重要性を改めて示したともいえる。近年、再審無罪となった東京電力女性社員殺害事件でも、証拠開示が決め手となったことは記憶に新しい。
 今年5月に成立した改正刑事訴訟法では、改革の一つとして、検察側が被告側に証拠の一覧表を示すことが盛り込まれた。だが、一覧表では不十分として全面開示を求める声は強い。事件で収集した証拠は、捜査機関のものではなく、公正な裁判を実現するための公共財産と考える必要がある。
 「自白は作り話の疑いがある」とまで指摘した再審開始決定は重い。にもかかわらず、地検が福岡高裁に即時抗告したのは残念だ。一刻も早く再審を始めるべきだ。

[京都新聞 2016年07月07日掲載]

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