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共謀罪  人権脅かす懸念拭えぬ

 強権と乱用の懸念が拭えない。
 政府は、「共謀罪」の新設を柱とする組織犯罪処罰法改正案を20日召集の通常国会に提出する方針を明らかにした。
 共謀罪は、犯罪を実行に移す前に計画に加わっただけで処罰する。捜査機関の拡大解釈による人権侵害の恐れが問題となり、国会で3回廃案になった経緯がある。
 政府は2020年の東京五輪・パラリンピックに備えたテロ対策のためと強調するが、聞こえてくる中身は従来の危うさが消えないままだ。またぞろ土壇場になって与党の「数の力」で押し通すのでなく、速やかに全容を国民に説明すべきであり、国会で徹底的に問題点を洗い出す必要がある。
 共謀罪が特異なのは、対象となる犯罪が広いことだ。政府が法案の下敷きとする国連の国際組織犯罪防止条約は、懲役・禁錮4年以上の犯罪としており、国内では計676に及ぶ。殺人や窃盗、詐欺のほか業務上過失致死など組織犯罪と関連が薄いものも含まれる。懸案の絞り込みは与党内でも議論できておらず、とりあえず網をかぶせるというのでは乱暴すぎる。
 適用対象は、以前の「団体」から「組織的犯罪集団」とし、計画だけでなく資金集めなど具体的な「準備行為」を要件に加える方向のようだ。だが何が該当するのか曖昧で線引きも難しく、捜査機関の恣意(しい)的な解釈を排除しがたい。市民団体などが自らも対象になり得ると警戒するのは無理もない。
 反対する日弁連は、従来政権で検討されていた、国境をまたぐ犯罪に要件を限る議論が立ち消えになっていることも批判している。政府は条約締結のため法整備が不可欠とするが、条約が掲げるのは越境的な組織犯罪の封じ込めであり、政府のより大きな狙いは国内にあるのではという疑念だ。
 安倍政権は、特定秘密保護法をはじめ政府の裁量や捜査機関の権限を広げる法整備を相次ぎ進めてきた。電話やメールの傍受も法改正で比較的軽微な犯罪にまで拡大している。今回も五輪開催やテロ対策を前面に掲げれば、国民の批判が高まりにくいという計算を感じざるを得ない。
 現在でも殺人など一部犯罪を準備段階で処罰する規定があり、既存法を駆使すれば条約に対応でき、他国の例をみても締結は可能という指摘もある。
 多様化するテロは法整備だけで防げるものでない。情報収集や捜査手法面の連携や力量の向上こそ急ぐべきだろう。

[京都新聞 2017年01月11日掲載]

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