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iPS網膜移植  治療実用化への一歩に

 理化学研究所などのチームが、重い目の病気の患者に、他人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った網膜組織を移植する臨床研究を始めた。5人程度の対象患者を募集し、今年前半にも最初の手術を実施するという。
 研究段階を一歩進め、iPS細胞を使った再生医療の実用化へ道を開く試みだ。これまでの動物実験や遺伝子解析から、細胞が移植後にがん化する危険性は考えられないというが、患者の安全と疾病への有効性を確認しながら、治療法を確立してもらいたい。
 研究対象は、網膜の中心部にあって物を見るために重要な黄斑部の機能が老化により低下し、視力悪化や視野のゆがみが起こる「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」だ。
 移植しても拒絶反応が少ない人から作ったiPS細胞を、網膜細胞に成長させ、この細胞を含む溶液を患者の目に注入して移植する。網膜細胞をシート状にして移植する方法も検討するという。
 理研などは2014年9月、この病の患者に、本人からつくったiPS細胞を使った移植手術をすでに実施し、視力低下が止まるなどの効果を確認している。
 しかし、iPS細胞を作る作業などで移植までに11カ月かかり、費用も約1億円に上るなど、一般的な治療として普及するには時間や費用の面での課題が大きい。
 あらかじめ作製して備蓄している他人のiPS細胞を使えば、移植までの期間は最短1カ月まで短縮でき、費用も5分の1以下になると見込まれるという。
 理研では、2例目の移植も計画していたが、患者から作製したiPS細胞に遺伝子の変異が見つかり、実施を見送った。備蓄しているiPS細胞なら、こうした問題は事前にチェックでき、安全性を高めることができる。
 京都大では、パーキンソン病治療に他人のiPS細胞を使った移植を計画中だ。現在有効な治療法がない難病患者らの期待が高い再生医療だが、着実に実績を積み重ねて、安全性を高めてほしい。
 iPS研究では、京大が再生医療用に品質の高いiPS細胞を作製、備蓄し、各研究機関に提供しているが、先月、試薬を取り違えた可能性があるとして提供を一部停止した。理研の臨床研究への影響はないが、研究の基本への信頼を揺るがしてはなるまい。
 iPS細胞作製の初成功から11年。研究は猛烈な速さで進むが、生命倫理など社会的課題についての議論も深める必要がある。

[京都新聞 2017年02月08日掲載]

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