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米の通商政策  国際ルールに沿う交渉を

 トランプ政権が、農業分野などで日本への市場開放圧力を強める姿勢を鮮明にしつつある。
 米通商代表部(USTR)代表に指名されたロバート・ライトハイザー氏は、議会上院の指名公聴会で「農業分野の交渉で日本は第一の標的になる」と強調し、日本との2国間の自由貿易協定(FTA)交渉に強い意欲を示した。同様の発言は他の米政府幹部からも出ている。
 環太平洋連携協定(TPP)では、コメについて米国向けの無関税輸入枠を最終的に7万トンまで拡大することや、牛肉や豚肉でも大幅に関税を下げることで合意した。
 4月に始まる日米経済対話では、日本が守りたいコメや牛・豚肉、乳製品など重要5項目を中心にTPP以上の市場開放を求めてくるのは間違いない。
 国内では農業改革の関連8法案が今国会に提出、審議されるが、さらなる市場開放で農家のやる気をそぐ事態になれば、日本農業の「成長産業化」どころか、衰退を一段と加速しかねない。
 「米国第一主義」を掲げるトランプ政権との新たな通商交渉に不安を抱く農家は多い。安倍政権は日米経済対話にどんな方針で臨むのか、早急に戦略を練り直す必要があろう。
 トランプ大統領は就任後、日本で車が売れない原因が不公平な日本市場にあると批判したが、2月の日米首脳会談では友好ムードを演出、日本批判をしばらく抑えていた。
 だが今月になり、世界貿易機関(WTO)に日本の自動車と農産物の市場開放を求める意見書を提出したことが判明、状況は変わりつつある。
 憂慮するのは、米国中心主義のなりふり構わぬ姿勢が顕著になってきたことだ。
 今月初めには、USTRがトランプ政権初の通商政策の年次報告書を議会に提出。「貿易政策の主権を守る」と明記し、貿易紛争の解決ではWTOの判断に縛られず、国内法を優先するとした。
 WTOは保護主義の台頭が第2次大戦の一因となった反省に基づく機関で、貿易に関する国際ルールを定めている。47年に作成された関税貿易一般協定(ガット)を発展的に解消し、95年に設立。現在、米国など164の国と地域が加盟する。
 そのWTOの規則や判断を世界最大の経済大国である米国が無視することになれば、制裁の応酬を招き、WTOを中心とした貿易に関する国際協調体制が崩れかねない。
 加えて報告書は、不公平な貿易相手国に高関税などの制裁を科す米通商法301条について、市場開放を迫る「強力な手段となり得る」として発動を検討する方針も示した。
 かつての日米貿易摩擦では米国が301条や迅速な手続きを定めたスーパー301条(失効)に基づく制裁をかざして日本に輸出制限や市場開放を迫った経緯がある。
 貿易紛争はWTOに提訴し、勧告や裁定に従うのが国際ルールである。301条のような一方的制裁をちらつかせた身勝手な交渉は許されない。米国は国際ルールに従うべきだ。

[京都新聞 2017年03月19日掲載]

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