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首相の改憲発言  熟議が先にあるべきだ

 安倍晋三首相が憲法改正の時期について「2020年施行」との目標を初めて示した。3日に自民党総裁として民間団体の会合に寄せたビデオメッセージに続き、きのうの衆院予算委員会でもこのことに触れ、政党間の改憲論議を促した。
 戦争放棄と戦力不保持を定めた9条1項、2項を堅持した上で、自衛隊の存在を明記する。高等教育無償化の議論も進め、東京五輪・パラリンピックに合わせて新憲法を施行する-というのが今回の発言の趣旨だ。
 ただ、改憲への機運が国民の間に徐々に醸成されつつあるとはいえ、9条の見直しについては賛否が割れている。五輪と結びつけて急ぐことには違和感がある。
 発言の背景には、国会の憲法審査会の審議ペースが遅いことへの首相のいらだちがあるようだ。改憲勢力が衆参両院の3分の2以上を占める中、18年9月の党総裁選で3選を果たし、任期中に悲願の改憲を実現したい思惑があるのだろう。北朝鮮情勢をめぐる緊張下、今なら自衛隊明記に抵抗が少ないと読んだのかもしれない。
 だが、改正原案を作成する権限をもつのは憲法審査会だ。その頭越しに首相が改正項目や時期を示したことは、今後の審議に深刻な影響を及ぼしかねない。
 民進党など野党はさっそく反発を強めている。与党内でさえ戸惑いの声や苦言が聞かれる。
 衆院の憲法審査会は参政権や国と地方の在り方など幅広い課題について、党派を超えて議論を深めようとしている最中だ。憲法のどこをどう変えるのか、そもそも変える必要があるのかも含めた丁寧な検討なくして、国民の理解は深まらない。今回の発言は単に議論の促進剤では済まされず、自民・公明・維新の改憲勢力だけで国会発議を目指す意思表示と受け取られても仕方あるまい。
 首相はビデオメッセージで「(自衛隊の存在が)違憲かもしれないとの議論が生まれる余地をなくすべきだ」と、9条見直しの理由を述べた。だが、2項が定める戦力不保持とどう両立させるのか。2項を大幅に改定して「国防軍」を創設するという自民の改憲草案との整合性も当然、問われよう。
 自衛隊は国民に広く支持されているものの、主に災害救援や国連平和維持活動(PKO)に対する支持だろう。米艦防護など、昨年の安全保障関連法施行で拡大した新たな役割に関する政府の説明も情報公開も足りない中で、自衛隊明記を急ぐべきではない。

[京都新聞 2017年05月09日掲載]

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