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「共謀罪」法成立  行き過ぎた運用に歯止めを

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が、委員会採決を省略する異例のかたちで可決、成立した。

 これにより、捜査機関は犯罪を実行後だけでなく、計画段階で処罰できるようになる。

 戦後民主主義の基本となる「内心の自由」を侵しかねない。適用基準が明確でなく、捜査機関が乱用する恐れがある-野党にとどまらず、多くの国民、有識者らが指摘してきた。

 政府は、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結するために必要だ、とするとともに、2020年の東京五輪・パラリンピック開催に向けて、有効なテロ対策になると強調する。

 だが、恣意(しい)的な運用をされないか、一般市民が捜査対象にならないか、国会で質問されても、政府の説明は二転三転し、国民の不安を解消できなかった。

 この段階で、本会議採決に踏み切る必要が本当にあったのか。首をかしげざるを得ない。将来に禍根を残すのではないかとの思いが、ますます強くなってくる。

 熟議を要する案件にもかかわらず、異例の経緯をたどり、参院で可決、成立した。

 民進党など野党4党は当然、廃案を目指していた。法案を審議していた参院法務委員会で、与党が採決の兆しをみせたため、金田勝年法相への問責決議案が提出された。

 委員会の採決を省略

 これに対して与党は、問責決議案提出を、これ以上審議する必要がないという意味だと主張し、委員会審議を打ち切って本会議で直接採決する「中間報告」の手続きを取った。

 中間報告が、過去になかったわけではない。

 09年の臓器移植法改正案の衆院審議では、所管する厚生労働委員会で意見集約できず、本会議で中間報告ののち採決した。

 だがこれは、法案の内容が個人の死生観に深く関わり、ほとんどの政党が党議拘束を外したので、委員会採決の必要がなかった。

 今回は、審議を尽くすため、会期を延長するという選択肢もあったはずだ。与党の対応は、立法府において、委員会審議を否定する暴挙だ、といわれても仕方ないだろう。

 ここまで政府・与党が会期内の決着にこだわった背景の一つには、終盤国会での迷走がある。

 安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設に関する問題では、「総理の意向」などと書かれたメールの写しを含む文書が、真偽不明のまま、「怪文書」などとして放置された。

 幕引き急ぐ意図あり

 文部科学省は、前事務次官や現役の職員が文書の存在を主張するに至って、ようやく追加調査に乗り出したが、対応は後手後手に回っていた。

 加えて、獣医学部新設の必要性に対しても、関係者から疑問の声が上がった。

 「共謀罪」法と、性犯罪の厳罰化を柱とする改正刑法を成立させて、なるべく早く国会を閉じ、問題の幕引きをしたいとの意図があったのは間違いない。

 もう一つの背景には、今年最大の政治決戦ともいわれる東京都議選(23日告示、7月2日投開票)が、目前に迫ってきたことが挙げられる。

 18日までの今国会会期を延長すれば、選挙戦に加計学園問題と「共謀罪」法案の両方を持ち込んでしまう。そうなれば、昨年、自民党が支援した候補を破って当選した小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」の攻勢をはねのけるのは難しい。

 所属議員が参院法務委員長を務める公明党にも、重視する都議選前に、委員会採決で混乱する姿を見せたくない気持ちがあったとされる。

 本会議採決は、党利党略でもあったようだ。

 共謀罪を新設する法案は過去3回、国会に提出されたが、「市民団体が処罰される」といった批判が相次ぎ、廃案になった。

 政府は、対象となる犯罪を676から277に絞り込んだから心配ないとする。しかし、森林法違反や刑法の墳墓発掘死体損壊などテロとの関連が薄いものも含まれており、その狙いは不可解だ。

 拡大解釈の可能性も

 捜査の対象となるのは、暴力団やテロ組織など「組織的犯罪集団」と規定された。2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が資金の手配などの「準備行為」をした時、計画に合意した全員が処罰される。一般市民は除外されるというが、「嫌疑が向けられた段階で一般人でなくなる」との答弁もあった。

 これでは、条文が将来、拡大解釈される可能性が残る。共謀を立証するのは難しい面があるため、捜査が肥大化する恐れもある。

 法が施行されれば、市民活動を萎縮させ、思想の自由やプライバシーを脅かす監視社会を招くかもしれない。

 行き過ぎた運用に対する確かな歯止めを、施行前に整えておくべきだ。

[京都新聞 2017年06月16日掲載]

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