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「共謀罪」法施行  乱用への懸念を拭えぬ

 犯罪を計画段階で罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法がきょう施行された。
 参院で先月、委員会採決を省略した乱暴な手法で可決されたのは記憶に新しい。これにより犯罪実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系は大きく変容する。捜査機関による乱用に対する懸念を拭えないまま施行されることに強い危惧を抱かざるを得ない。
 政府は、国際組織犯罪防止条約の締結に不可欠として共謀罪の新設を急いだ。2020年東京五輪・パラリンピックに向け、テロを防ぐためにも必要だとし「テロ等準備罪」の呼称を使った。
 ところが条約の目的はマフィアなどの経済的犯罪だ。テロ対策という国民が受け入れやすいイメージを先行させ、共謀罪の必要性を問う根本的な論点さえも十分に審議されたとは言い難い。
 政府は、共謀罪の適用対象がテロ集団や暴力団などに限られ、一般市民に適用されることはないと説明した。だが国会審議で一般人かどうかの線引きははっきりしなかった。逆に組織的犯罪集団や準備行為の定義が曖昧なため、一般の団体や市民も捜査の対象になりかねないとの疑念は深まった。
 共謀を立証するのは難しく、捜査が肥大化する可能性がある。メールやLINEに捜査が及び、通信傍受やGPS捜査の拡大も心配される。法務省は共謀罪事件では可能な限り取り調べの録音・録画を実施するよう全国の検察庁に求めた。国会の付帯決議に留意した措置だが、果たしてこれで捜査機関の恣意(しい)的、あるいは過剰な運用への歯止めとなるだろうか。
 共謀罪は、戦後民主主義の基本である「内心の自由」を脅かす恐れがある。共謀罪に異を唱えてきた日本ペンクラブの吉岡忍会長は「文学者だけでなく、テレビやインターネットを含めた、市民社会全体の言論表現の自由の問題」と危機感を募らせる。
 先日の東京都議選で、自民党は歴史的大敗を喫した。国政選挙と異なるとはいえ、森友、加計両学園問題などに加え、共謀罪を巡る強権的な政治手法にも東京都民がノーを突き付けたと言える。それは各種世論調査で内閣支持率が急落していることからもうかがえる。
 このまま共謀罪が運用されれば市民活動を萎縮させ、思想の自由やプライバシーを脅かす監視社会を招くことになる。施行後も共謀罪がはらむ問題点から目をそらさず異議申し立てを続けたい。将来に禍根を残してはならない。

[京都新聞 2017年07月11日掲載]

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