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米朝首脳会談  東アジア安保新たな段階に

 東アジアの安全保障環境を変える歴史的一歩となるのだろうか。
 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による初の会談がシンガポールで行われた。
 共同声明では、金氏が4月末の南北首脳会談での板門店宣言を再確認して「朝鮮半島の完全非核化」を約束、トランプ氏は北朝鮮の体制を保証すると確約した。
 両首脳は、朝鮮半島で持続的で安定した平和体制を築くため努力することでも合意した。
 北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐって昨年まで一触即発の危機が続いていた朝鮮半島は、米朝が平和構築に向けて歩み寄る新たな段階に入った。
 緊張緩和を進め、平和への取り組みを加速させるよう、両国首脳にはいっそうの努力を求めたい。
 両国関係の再構築は、65年に及ぶ「戦争状態」にある朝鮮戦争の終結宣言を導き、冷戦時代から朝鮮半島に残る対立状態を終了させる可能性にもつながる。
 冷戦構造の枠組みを脱し、新たな地域安定の仕組みを構想し直す機会につなげたい。米朝だけでなく、日本、韓国、中国など周辺国も互いの関係を結び直し、東アジアの平和に貢献してほしい。

 実効性ある非核化を
 とはいえ、今回の首脳会談で最大の焦点だった「非核化」についての合意は不透明な部分も残る。
 事前の実務交渉で米国が求めていた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言は共同声明に明記されなかった。
 非核化プロセスについては、米国がCVIDを求めたのに対し、北朝鮮は行動ごとに見返りを求める「段階的措置」が必要と主張してきた。首脳会談で、トランプ氏が譲歩したともとれる。
 トランプ氏は、金氏がただちに非核化プロセスを実行すると語ったが、具体的にどのような過程で行うのかは見通せない。
 金氏が約束した非核化の実効性を担保するには、期限など具体的な工程を示し、専門家による現地査察などの検証が欠かせない。
 核・ミサイル開発で、北朝鮮は過去に何度も非核化に向けた合意をしながら核開発を継続してきた「前歴」がある。
 金氏が本気で約束したなら、国際社会に見える形でプロセスを示さなくてはならない。
 最大60発ともいわれる既存核兵器の保管先やウラン濃縮施設の所在情報が不明なままだ。国際原子力機関(IAEA)の査察を含め、実効性ある検証を受け入れなければ信用は得られないだろう。
 米国も、その点は強く求めていくべきだ。トランプ氏は、北朝鮮が最も切実に求めていた体制保証という「見返り」を与えた。非核化が確実に進む見通しもなくお墨付きを出したとなれば、過去の米政府の失敗を繰り返すだけだ。
 専門家の中には、国家の存亡をかけて親子3代にわたって開発した核兵器を完全に手放すことに懐疑的な見方もある。非核化に向けた確実な行動を、今後の交渉の中で詰めていく必要がある。
 米朝首脳会談で再確認した板門店宣言では、朝鮮戦争の終戦宣言をし、休戦協定を平和協定に転換することが盛り込まれている。実現すれば、非核化への取り組みを促す一助になると考えられる。

 日本も入る枠組みに
 戦争状態の終結は在韓米軍や合同演習などの不要論につながる可能性がある。トランプ氏も在韓米軍の縮小に言及しており、日本を取り巻く安全保障の現状は大きく変化することも予想される。
 北朝鮮が既存核兵器の廃棄などに踏み切らないままの平和協定転換は、かえって地域を不安定にする可能性があることには注意が必要だ。
 そうはいっても、今回の共同声明で、米朝が「緊張状態と敵対関係の克服」にふれたことは、東アジアの安全保障に新しい局面をもたらしたといえる。米朝だけでなく、周辺諸国も加え、これまでとは異なる新たな発想に立った安全保障体制を構想する必要もあるのではないか。
 板門店宣言では韓国、北朝鮮と米国の3者、または中国を加えた4者による会談を積極的に進めて平和体制を構築することが語られている。日本だけが置き去りにされるわけにはいかない。日本も加わって大きな枠組みをつくれるよう韓国や中国にも積極的に働きかけなければならない。

 「拉致」の突破口開け
 日本政府が最大の懸案とする拉致問題は共同声明には明記されなかったが、トランプ氏が金氏に提起した。ただ、金氏がどう反応したかは不明だ。
 最終的な解決には日朝が直接対話を重ね、安倍晋三首相と金氏の首脳会談につなげる必要がある。しかし北朝鮮は「拉致問題は解決済み」としており、交渉は難航が予想される。
 日朝が交渉を進めるには、北朝鮮側が歩み寄る環境が必要だが、トランプ氏がそこまで仲介してくれるかは分からない。
 米朝会談の成果をてこに、14日から予定される日朝非公式協議などの場で議論を積み重ね、早期の問題解決への突破口を開かなくてはならない。

[京都新聞 2018年06月13日掲載]

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