社説 京都新聞トップへ

英自爆テロ  憎悪の連鎖断つ対策を

 警備が手薄で不特定多数が集まる「ソフトターゲット」がまたも狙われた。
 英中部マンチェスターのコンサート会場で爆発があり、22人が死亡、60人以上が負傷した。会場で起爆装置を持った男1人が死亡、地元警察は自爆テロと断定した。
 地元メディアによると、実行犯はリビア系の両親を持ち、マンチェスターで生まれ育った22歳の若者という。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したが、実行犯との具体的な結びつきは明らかにしていない。
 どんな理由があろうと、罪のない人々を巻き込む無差別殺人は断じて許されない。犯行の詳しい経緯や背後関係を早急に解明し、国際社会は結束して再発防止策を講じる必要がある。
 狙われたのは、若者に人気の高い米女性歌手アリアナ・グランデさんのコンサート会場で、終了後、観客が家路につく時に爆発が起きた。犠牲者の多くは10代の若者とみられる。英治安当局は、犯行前から実行犯をマークしていたが、「周辺者」として調査の対象に入れていなかったという。
 ソフトターゲットを狙ったテロでは、米ロックバンドが公演していた劇場やサッカー場が標的となった2015年のパリ同時多発テロが記憶に新しい。その後も、欧州では繁華街や観光地でトラックが突っ込むなど、多数の犠牲者が出ている。
 各国とも警備強化に努めているが、不特定多数が集まる場所での安全確保の難しさを今回のテロは改めて突きつけたといえる。大規模集客施設などでのテロは、より多くの人に恐怖心を植え付ける効果があり、今後も標的となる恐れが十分にある。欧州だけでなく2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控える日本も警備態勢の再検討が迫られよう。
 懸念するのは、こうしたテロが世界で台頭する極右や移民排斥の動きを後押しし、市民社会の分断を一層深めることだ。
 英国やフランスでは、多くの移民系の若者が教育や就職、収入の格差に苦しみ、ISなどの過激思想に染まるケースが少なくない。憎悪の連鎖を断つには、テロの背景にある歴史や社会構造を見つめ、差別や貧困の是正に向けた息の長い取り組みを進める必要がある。
 あすから先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)がイタリアで始まる。警備の在り方と併せ、そうした問題についても議論を深めてほしい。

[京都新聞 2017年05月25日掲載]

バックナンバー