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「共謀罪」法案  乱用の恐れなお消えぬ

 過去に3回廃案になった「共謀罪」法案を、政府がまたも国会に提出する見通しという。今度は「テロ等組織犯罪準備罪」と名を変えて、である。
 共謀罪は、重大な犯罪を実行に移す前に計画に加わっただけで処罰するものだ。安易な見込み捜査や不当な身柄拘束につながる危険性を、わたしたちは再三指摘してきた。野党や日弁連、刑事法学者も「市民団体や労働組合が対象になり得る」と批判し、小泉政権下で提出された法案は3回とも廃案になった。
 今回の法案が以前と違うのは、単なる「団体」としていた適用対象を「組織的犯罪集団」に変え、犯罪の計画だけでなく資金集めなどの具体的な「準備行為」を構成要件に加える点にあるようだ。
 だが組織的犯罪集団とは実際に何を指すのか。テロ組織や暴力団の他にどんな団体が含まれるのか。準備行為とそうでない行為の線引きはどこか。そこをはっきり示さなければ、対象者を実質的に限定することにはならない。
 一方で、対象の罪種は過去の法案を引き継ぎ、重大犯罪に必ずしも当たらない窃盗や詐欺罪などを含めて600超に上る。法案の本質を変えずとも、4年後に迫った東京五輪・パラリンピックのテロ対策強化と言えば国民の理解が得やすいと政府が踏んでいるのなら、極めて危うい。
 特定秘密保護法をはじめとして、政府の裁量や捜査機関の権限を広げる法整備が安倍政権下で相次いでいる。これまで抑制的だった電話やメールの傍受も、5月の法改正で比較的軽微な犯罪にまで対象が拡大した。こうした国権強化の先に待つものが、息苦しい「監視社会」であり、人権の抑圧であることは歴史の示すところだ。
 現行法にも殺人など一部の犯罪を準備段階で処罰する規定はある。それを多くの犯罪に広げれば「刑法体系を根底から覆す」ことになるとの日弁連の指摘にも、謙虚に耳を傾けるべきだろう。
 政府は、共謀罪の創設は国際社会の要請という。180カ国以上が締結する国連の国際組織犯罪防止条約に日本は署名しているが、正式な締結には、国内法に共謀罪の規定が不可欠と説明する。
 頻発するテロの封じ込めへ、各国との連携はむろん必要だ。一方で、人権の保障も国際社会の原則である。捜査の行き過ぎや冤罪がなくならない中、権力を持つ者はまずは自制し、治安と人権を両立する手だてを講じるべきだ。

[京都新聞 2016年08月30日掲載]

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