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アイドル刺傷  SNSへの対策が急務

 東京都小金井市で、イベントに出演する直前だったアイドルの女子大生がファンを自称する男に刺され、重体になった。
 殺人未遂容疑などで送検された男は「プレゼントを送り返されて憤慨した」などと供述しているという。一方的に付きまとったうえ、相手から好意が得られなかったといって襲ったというのならば、あまりにも身勝手な動機であり、慄然(りつぜん)とせざるを得ない。
 芸能人が襲撃される事件は今に始まったわけではない。だが、ファンとの距離の近さが特徴になっている近年のアイドル活動のリスクを指摘する声もある。
 アイドルを身近に感じられる握手会や小規模なライブハウスのイベントは人気が高く、アイドル自身がツイッターなどで情報発信することで心理的な距離も近くなる。その分、ファンがストーカー化したり、不審人物が紛れ込んだりする危険性も高い。2014年にアイドルグループAKB48の握手会会場でメンバーが襲撃された事件は記憶に新しい。さらに、個人で活動するアイドルが増え、警備も十分とはいえない。
 ストーカー被害は12年以降、年間2万件前後の高水準で推移している。被害者の9割は女性で、凶悪化も目立つ。被害者をいかに守るかを考えなければならない。
 今回の事件では、男がブログやツイッターに執拗(しつよう)に書き込みを続けていたため、女子大生や母親が警察に相談していた。警察はイベント当日に容疑者が現れたら通報するように伝えたが、書き込みについては「本人か調査が必要」として容疑者に接触せず、「すぐに危害を加えるような書き込みではない」と、ストーカー事案を担当する部署に伝えていなかった。過去には警察の初動が遅かったことから深刻な結果に至ったケースもある。今回の対応が適切だったか、詳細な検証が必要だ。
 近年、ツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)への書き込みを悪用した「サイバーストーカー」行為が問題になっているが、ストーカー規制法では取り締まりの対象外だ。有識者検討会は「対象にすべき」としているが、法改正は実現していない。通信技術の進歩は著しく、新たなコミュニケーション手法への対応は急務だ。
 警察庁は本年度、ストーカー加害者が精神科医の診察を受けやすくする取り組みを始めた。取り締まりだけではなく、さまざまな対策で被害を防止したい。

[京都新聞 2016年05月25日掲載]

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