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「水俣条約」発効  脱水銀への道筋示そう

 水銀の環境排出と健康被害を防ぐ国際ルール「水銀に関する水俣条約」が発効した。発効に伴い、水銀を含んだ製品の製造や輸出入が2020年までに原則禁止されるほか、15年以内に水銀鉱山からの採掘もできなくなる。
 「公害病の原点」とされる水俣病の被害を繰り返さないようにという日本政府の提案で名称が決まった経過を忘れてはならない。熊本県水俣市にある工場がメチル水銀を含む排水を水俣湾に流し、魚や貝類を長期間食べた人々に深刻で広範囲の健康被害を及ぼした。今も認定患者数は熊本、鹿児島両県で2282人いる。
 水俣病という苦い経験をしたわが国は、世界の脱水銀化のために技術面で貢献し、行動でも規制の先頭に立つ必要がある。
 金属では常温で唯一、液体である水銀は化学特性から鉱工業などで広く利用されてきた。強い毒性があり、水俣病後も世界中に健康被害が広がったことから、国連環境計画(UNEP)が01年から調査に取り組み、13年に水俣市で開いた外交会議で水俣条約が採択された。74カ国・地域が批准している。
 条約は、新しい水銀鉱脈の開発を禁止するほか、特定用途以外の水銀の輸出を規制する。
 しかし、アフリカや南米、東南アジアの発展途上国では、現在でも小規模な金採掘場で水銀が広く使用されている。こうした採掘現場での使用規制が課題となっている。
 河川に水銀を含む廃液や汚染土が流入している地域があり、海洋を回遊するクジラやマグロまで汚染している。食を通じて人への影響も懸念され、世界規模で水銀需要を減らす努力は待ったなしの状況だ。
 欧米では水銀輸出を禁止する国が増えているのに、日本は余った水銀を輸出している現状を改めたい。
 血圧計や体温計、電池の水銀回収が進む中で、今も年に100トン前後を輸出しているという。
 蛍光灯からLED灯への切り替えも契機となる。蛍光灯から取り出した水銀をどう処理し、確実な国内保管につなげるのか。不法投棄はあってはならない。
 条約締結国は来月24日からスイス・ジュネーブで第1回会議に臨む。日本は水俣病の教訓や汚染地の復興の取り組みを語ってほしい。併せて、水銀に頼らない社会の在り方について経験国として発信してもらいたい。

[京都新聞 2017年08月17日掲載]

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