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米朝会談中止  対話を続け、レール敷き直せ

 朝鮮半島の非核化に向けた世界の期待を一気にしぼませてしまった。対話ムードに包まれていた半島で緊張が再燃しないか心配だ。
 トランプ米大統領が、6月12日にシンガポールで予定していた米朝首脳会談を中止すると北朝鮮に通告した。北朝鮮側の「敵対的な言動」を理由に挙げている。
 ただ、通告の書簡では、拘束されていた米国人3人の解放に謝意を示すとともに、今後の対話の可能性を否定しなかった。北朝鮮も、「首脳会談が切実に必要だ」として、米側に再考を促した。
 会談は中止になったが、両国とも関係を断ち切ったのではないことをうかがわせる。中止というより「延期」に近い意味を持つのではないか。適切な冷却期間を置いたうえで、あらためて会談を実現させるよう求めたい。
 北朝鮮はここ数週間、韓国との南北閣僚級会談を見送ったり、米国高官を名指しで批判したりして米韓両国を揺さぶり、米朝首脳会談も取りやめると警告していた。
 その一方で、ポンペオ米国務長官が訪朝して金正恩朝鮮労働党委員長と接触するなど、両国は水面下で交渉を続けてきた。
 北朝鮮の一連の言動も、トランプ氏が歴史的な会談を断念することはないと踏んだ上での強気のけん制と理解していたはずだ。
 にもかかわらず首脳会談を中止したのは、非核化の手順をめぐって北朝鮮と折り合えなかった可能性が高い。米側は「完全かつ検証可能で不可逆的な」非核化を打ち出しており、時間をかけて行動ごとに制裁緩和の見返りを求める「段階的措置」が必要だとする北朝鮮の立場とは隔たりがあった。

 「北」は意図読み違え
 トランプ政権は、会談取りやめにも言及した北朝鮮の動きを逆手に取り、中止を突き付けることで今後の交渉の主導権を握ろうとしたようにもみえる。非核化のプロセスをめぐるせめぎ合いは、これからも続くことになろう。
 米朝両国の長年にわたる相互不信を考えれば、トランプ氏が首脳会談を決断してわずか3カ月で信頼関係を築き上げるのは難しかったと言わざるをえない。
 トランプ氏は金氏に「強力な保護」を与えて安全を保証し、体制転覆を図らないことを明言した。だが、ボルトン大統領補佐官は全面的に核放棄するまで見返りを与えず、その後指導者が殺害されたリビアの例に触れるなど、核放棄に関する北朝鮮の真意を疑問視する姿勢を変えていない。
 北朝鮮は、金氏の体制が本当に保証されるのか疑心暗鬼になり、首脳会談をめぐるトランプ氏の意図を読み違えたと推測できる。

 軍事力誇示は避けよ
 北朝鮮の背後で中国の影が大きくなってきたことも、米国の判断に影響を与えた。金氏は5月上旬に習近平国家主席と2度目の会談を行った。中朝国境では国連の制裁中にもかかわらず人や物資の往来が活発化しているといわれる。中国を後ろ盾にした北朝鮮の強い態度が、米国の不信を増幅した可能性もある。
 米国は再び「最大限の圧力」を強める構えだが、米朝両国が昨年以前のように軍事力を誇示して威嚇し合い、一触即発の危機を招くような事態の再来は避けなければならない。
 今年に入ってからの北朝鮮の融和姿勢は、国際社会の見方を変えつつある。謎の独裁者と思われてきた金氏の、意外に冷静で懐の深い一面が認識された。朝鮮半島の平和構築に向けて真剣に交渉に取り組む韓国・北朝鮮両国が置かれている立場への理解も深まっているようにみえる。
 首脳会談が流れたといって、再び武力を背景にむやみな緊張を呼び込むようでは失望を招くだけだ。北朝鮮は自らの融和政策が国際世論を変化させ、朝鮮半島情勢が従来とは異なる段階に進んだことを自覚しなくてはならない。過剰な反応を慎み、国際社会から理解される振る舞いが求められる。

 日本は戦略練り直せ
 反目し合っていた米朝両国が高官同士の交渉を重ね、新たなチャンネルをつくった意味は小さくない。今後も切れ目なく対話を継続し、首脳会談へのレールを敷き直してほしい。
 4月の南北首脳会談では、朝鮮戦争の終結に向けて休戦協定を平和協定に転換することや、恒久的な平和構築のため南北と米国の3者、または南北と米中の4者による会談を積極的に進めていくことが共同宣言で示された。
 首脳会談の中止で、こうした緊張緩和に向けた合意が実現しなくなる可能性もある。東アジアの安全保障にとって重要なテーマだけに、首脳会談とは切り離して前に進める方策が必要だ。
 日本にとっては、拉致問題解決の働き掛けをトランプ氏に託していただけに、戦略の練り直しが迫られる。このままでは日朝首脳会談の実現も簡単ではあるまい。
 米朝首脳会談の可能性が消えていない中、対話の流れを踏まえて何ができるかを考えるべきだ。圧力一辺倒ではなく、米朝の間で、どんな役割を果たせるか検討してほしい。日米韓の連携がこれまで以上に重要となろう。

[京都新聞 2018年05月26日掲載]

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