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英国のEU離脱  分断の痛み最小化せよ

 英国のメイ首相が、欧州連合(EU)からの離脱交渉に当たり、欧州単一市場に「とどまることはできない」としてEUから完全に離脱する方針を表明した。
 離脱派が多数となった国民投票から半年余り、経済への打撃よりも民意で示された移民制限を優先する「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」を選んだ形だ。市場アクセスの維持も模索したが、「いいとこ取りは許さない」とするEU側の姿勢に、完全離脱の腹をくくらされたとも言えよう。
 メイ氏は「グローバルな英国」を目指すとしたが、経済の混乱や国民の分断など懸念は山積みで、離脱が欧州、世界の政治経済に影を落とすのは必至だ。今春以降、原則2年の離脱交渉でいかに痛みを小さくできるかが問われる。
 完全離脱の方針は、優先事項とした移民流入管理の権限を自国に取り戻すには、人やモノの自由な移動を掲げる単一市場の原則と相いれないという結論だろう。新たにEUと貿易協定を結びたい意向だが、そう都合よく進むかどうか先行きは見通せない。
 英国は貿易額のほぼ半分が欧州諸国相手で、域内関税を撤廃する単一市場の恩恵を最大限受けてきた立場だ。日本勢など供給拠点を置く外資メーカーのほか、基幹産業の金融も域内共通で営業できる利点が損われれば流出しかねず、経済への打撃は計り知れない。
 EUもドイツに次ぐ経済規模の英国の離脱は痛手で、景気面や世界的な存在感の低下を懸念する。ただ、特別扱いは「離脱ドミノ」を招きかねず、年内のフランス大統領選やドイツ連邦議会選などで反EU派を勢いづかせないためにも厳しい態度を崩していない。
 無視できないのは、トランプ米次期大統領が英国のEU離脱を評価し、個別の貿易協定に引き込もうとしていることだ。自国都合を優先する保護主義の台頭に対し、EUも英仏海峡に壁を築くのでは「欧州の平和と共栄」の理念から遠のく。より柔軟に各国の不満をくみ取り、共通の社会的、経済的利益を訴求する姿勢が求められよう。
 英国の行動により大きな責任が伴うのは当然だ。離脱の是非は地域や年齢、所得層による分断を生み、EU残留が大勢のスコットランドでは再び独立を問う住民投票の動きが出ている。メイ氏は離脱後も「ますます繁栄する」と国民に融和を呼び掛けたが、国内の格差是正とともに欧州、世界と今後どう向き合い、役割を果たしていくかを示していく必要がある。

[京都新聞 2017年01月19日掲載]

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