よみがえれ環境 第1部
島根県沖の日本海で1月初め、ロシア船籍のタンカー「ナホトカ」が沈没、大量の重油が海に流れ出してから、福井市内の動物病院には、重油まみれの海鳥が次々と運び込まれている。 ウミスズメ、カイツブリ、ウミネコ…。獣医の柴田晴夫さん(43)は段ボール箱にうずくまる海鳥10数羽を見つめ「重油のフンをする鳥もいる。死んだに違いない無数の海鳥はとんだとばっちり」と嘆いた。 ■年間17万キロリットル流出 タンカーのオイル流出事故は、世界の海で後を断たない。国際タンカー船主汚染対策連合の調べでは、1979年に西インド諸島付近のカリブ海で原油約30万キロリットルが流出するなど、1995年までの20年間に7キロリットル以上のオイル流出事故が6,100件発生、年平均約17万キロリットルのオイルが海洋にたれ流されてきた。 89年3月、米国アラスカ沖で、タンカーが座礁し原油4万キロリットルが流出した事故では、800キロに及ぶ海岸線が原油で汚染され、湾内のウミスズメの30%が死亡、アシカなどの生息数が減った。米国海洋気象庁(NOAA)の報告書によると、事故から8年後の今でも、ニシンの漁獲量が大幅に減り、カモ類の卵の殻が極端に薄くなるなど不気味な後遺症が続いている。 湾岸戦争で汚染された海鳥の救護にペルシャ湾にも出向いた獣医の馬場国敏さん(48)は「規模こそ小さいが、三国町の浜の汚れ具合いはペルシャ湾と同じ。岩場は、20年は元に戻らないだろう」という。 重油は発がん性のあるベンゼンやナフタリンなど様々な化学物質を含み、成分のうちタール分は廃油ボールになって海底に沈む。環境保護団体・グリーンピース(英国)の海洋汚染担当、ポール・ホースマン博士は「廃油の成分が長期的に海底にしみ出てくるため、カニなど深海の生物も、安全とは言い切れない。当然、それを食べる人間の健康にも影響があるはずだ」と警告する。 重油による生態系への長期的な影響については、未解明な部分が多いが、京都大農学部付属水産実験所(舞鶴市)の青海忠久助手(海洋生物学)も「生物の体内に蓄積、濃縮され、思わぬ将来に影響が現れることがある」と危ぐした。 ■油処理剤に問題も 合成洗剤と同じ界面活性剤を主成分とする油処理剤の毒性問題もある。今回の事故で、海上保安庁と海上自衛隊は1月21日までに、重油の分解を助けるため、18リットル灯油缶にして3,100本分の55キロリットルの油処理剤を海上に散布した。 海上保安庁の外郭団体・海上災害防止センター(東京)は「運輸省の規格が厳しく、油処理剤の毒性は家庭用洗剤より低い」と話すが、90年1月に伊根町でリベリア船から重油が流出した事故で、サザエなどから油処理剤の成分の非イオン活性剤が検出されたこともあり、漁業関係者の不安は消えない。 三国町を現地調査した中原紘之・京都大教授(海洋環境微生物学)は「界面活性剤が、魚介類の粘膜に付着すれば、有害な化学物質を吸収しやすくなる。植物性プランクトンや貝の繁殖を妨げることによって、海草の種類を変化させ、生態系のバランスを崩す。10年単位の長期的な観察が必要だ」と指摘する。 現在、世界で運行中のタンカー(1万トン以上)は約3,100隻で、日本へも毎年、6,100隻が寄港する。河宮信郎・中京大教授(科学技術論)は「タンカー事故は、石油漬け文明の象徴。リスクを減らすのは結局、徹底した省エネやライフスタイルの変換しかない」と言い切った。
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