Kyoto Shimbun 1997.4.21

よみがえれ環境第2部
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砂漠の夢

 ウイグル語で「入ったら出られない」を意味する中央アジアのタクラマカン砂漠。シルクロードはこの難所を避け、南北に大きく迂(う)回。幻の古代都市・楼蘭の遺跡を発見したスウェーデン人探検家のヘディン(1865一1952)も、砂嵐に阻まれ、砂漠の横断を断念した。

 ラクダに背負わせた太陽電池が、タクラマカン砂漠を踏破する遠征隊を陰で支えた(95年10月、関西大探検部提供)
 ヘディンの西域探検100年を記念し、関西大探検部の田口学さん(23)=城陽市=ら遠征隊10人は95年秋、ヘディンと同じルートで、500キロにわたる砂漠の踏破に挑んだ。

 9頭のラクダには、食料と水とともに、ランプやトランシーバーなどの充電に使う日本製の2枚の太陽電池パネルを背負わせた。「高地で、雲ひとつない好天つづき。日本では7時間かかる太陽電池の充電が2、3時間でできた」

 途中、立ち寄ったウイグル人の村は、電気もガスもなかった。村人たちはラクダの背の見慣れないパネルを見て人だかり。「燃料なしで電気が使える太陽光発電と知ってその便利さに驚いていた。砂漠の人々にはぴったりの技術」。30日かかって踏破に成功した田口さんは振り返る。

 水がなく砂嵐が吹き荒れる不毛の大地の砂漠が、太陽光発電の登場でにわかに、地球温暖化を防ぐエネルギーの生産地として脚光を浴び出した。

 ■CO2をリサイクル

 財団法人・地球環境産業技術研究機構(RITE、京都府相楽郡木津町)は、砂漠に建設した太陽光発電所の電力で、地球温暖化の元凶である二酸化炭素(CO2)をエネルギーとして再利用する技術の研究を進めている。

 特殊な高分子膜で、火力発電所などの排気ガスからCO2だけを分離し、高圧を加えて液化し、タンカーで砂漠の国に送る。砂漠に建設した太陽光発電所の電力で海水を電気分解してつくる水素と、CO2を化学反応させて液体燃料のメタノールを合成する―というプロジェクトだ。

 丹羽宣治・主席研究員は「このシステムで(発電所の)二酸化炭素の排出量を36%減らせる。メタノールは自動車などの貴重な燃料になる」という。

 東北大金属材料研究所の橋本功二教授も、同様に太陽光発電の電力を使って、CO2と水素からメタンガスを合成した。「メタンを発電に使い、そこで発生するCO2をまたリサイクルすれば、最終的にはCO2を79%もカットできる」

 ■緑化計画にも利用

 タクラマカン遠征隊に太陽電池を提供した三洋電機(本社・大阪府守口市)はさらに壮大な構想を持っている。2001年から中央アジアの砂漠地帯で、かつてのシルクロードに沿って太陽光発電の基地の建設を始め、最終的には2億3千万キロワットを発電、総延長1万キロの送電線でモスクワや北京に直接、電力を送る。この電力の一部で地下水をくみ上げ、砂漠の緑化を図るプロジェクトだ。

 同社の中野昭一・マテリアル研究所長は「砂漠は天気が良く、かなり高い発電効率を期待できる。世界の砂漠の総面積の4%に太陽電池を敷きつめれば、2001年に世界が消費する全エネルギーをまかなえ、石油や石炭の火力発電所はいらなくなる」と、夢を膨らませる。

 もちろん、砂漠の発電所構想には、太陽電池の生産コストの高さなど多くの課題がある。RITEの試算では、CO2をリサイクルして合成したメタノールは通常価格の8倍、シルクロードの太陽光発電基地に必要な建設資金は、23兆円とも見込まれる。

 「いずれの構想も、実現は早くて40、50年先。しかし、原油価格の上昇や炭素税の導入などによって、一気に計画が進む可能性も秘めている」。通産省資源環境技術総合研究所の稲葉敦・燃料物性研究室長はいう。

 中国の地下核実験も繰り返されたタクラマカン砂漠。「砂漠を汚す利用は賛成できないが、太陽光発電なら、砂漠を汚さずに、オアシスとシルクロードを復活させてくれるかもしれませんね」。田口さんは、恐らくヘディンが夢想だにしなかったであろう砂漠の夢に思いを馳せた。  

第2部 おわり


                
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