よみがえれ環境 第1部
サケの定置網漁業を営む遠峰徹也さん(61)は15年前から、漁のオフシーズンの冬にカメラで流氷を追い続けている。「北からの強い風で、流氷が岸に向かって突進してくる。でも、ここ数年は、流氷がなかなか来てくれない。地球が温かくなっている」 最盛期にはオホーツク海の8割を覆うといわれる流氷(海氷)の量が減っている。気象庁の観測では、北海道沿岸の流氷の最大面積は1989年から平年値(117万平方キロ)を下回り続け、昨年と一昨年は2割も下回った。沿岸から初めて流氷を観察できる「流氷初日」も、紋別市でかつて1月20日前後だったのが、昨年は2月7日までずれこんだ。 「遅れているだけではない。流氷が岸についても、翌日にはすぐ離れてしまう。流氷の量が本当に少なくなっている」。遠峰さんは断言する。 ■氷河は確実に後退 国立極地研究所の渡辺興亜教授は「地球温暖化の影響は、極地から出始める」と指摘する。南極では、氷棚に亀裂が入り、巨大氷山が流れ出している。「南極の氷が溶けると、海面が上昇し大きな影響が出るが、観測が不十分なので、まだ断言はできない。しかし、ノルウエーなど山岳や沿岸の氷河は、確実に後退している」と憂える。 昨年、気象庁のスーパーコンピューターの計算による地球温暖化の予測で、二酸化炭素濃度がこのまま上昇すれば、オホーツク海は100年後に水温が3―4度上がり、海氷が消えるという結果が出た。コンピューターの予測が現実のものとなろうとしているのか。 オホーツク沿岸の大切な観光資源である流氷は、北のロマンを運ぶだけではない。地元の漁師の間では「流氷が多い年は豊漁」との言い伝えがある。流氷の底に藻類や海草が宿り、プランクトンを沿岸に運ぶ。それを求めて魚が集まってくる。流氷は北の海の豊かな生態系を育んできた。 流氷は海面を覆って、波しぶきによる内陸部の塩害も防いできたが、近年、流氷の減少で沿岸のナラやカエデなど防風林の芽吹きも遅れ出した。 ■サロマ湖も凍らず 流氷の異変だけでなく、オホーツク海とつながる海水の湖、サロマ湖も、ここ数年、冬期に結氷しなくなった。このため、この1、2年、流氷が海から湖内に流れ込んで、ホタテ貝の養殖施設を壊し、壊滅的な被害を出した。 「見て下さい。この時期でも、湖にほとんど氷が張っていない。温暖化の影響としか考えられない」。岸に張った氷は、触っただけでパリパリと割れるほど薄い。「海とつながる湖口にワイヤーを張り、流氷が入るのを防ごうとしていますが、今年も不安ですね」 遠峰さんは一昨年、流氷をテーマとした写真集を発行した。その中の一枚の写真は、厚さ2メートルもある大きな流氷がぶつかり、重なりあって海面にそそり立っている。「オホーツクからの風で流氷が岸にぶつかって砕け、撮影している私の上に降ってきたこともありましたよ」 遠峰さんは「巨大な氷」を撮影した写真を一枚一枚めくりながら「もうこんな流氷の写真は、撮れないのでしょうか」と寂しそうにつぶやいた。
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