Kyoto Shimbun 1997.7.3

  よみがえれ 環境 第3部
 

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モルディブ

 排出ガスの増加で悪化の一途をたどる温暖化に国境の壁はない。美しい地球の環境を次世代に伝えていくために、わたしたちは地球市民として行動しなければならない時に来ている。いま、世界の国で、人々が環境保全についてどう考え、模索しているのか、海外の動向を探る。
(第3部は、社会部 山内康敬、日比野敏陽、政経部
 石崎立矢、東京支社 水腰英樹が担当します。)

国土水没に危機感

珊瑚礁でできた島国・モルディブ。標高が低く、地球温暖化の影響による海面上昇で国土の水没が心配されている
 早朝からの激しいスコールが上がり、白い砂浜に強い日差しが照りつけた。青く澄んだインド洋に、ぽっかりと浮かぶモルディブの首都・マーレ島。

 「この美しい国は、重大な危機に直面している」。海岸沿いに立つ資源環境企画省の庁舎で、アブドゥル・ラシード・ハッサン大臣は窓の外に広がる海に目をやり、切り出した。

 ■標高平均1メートル未満

 モルディブの約千百九十の島々は、珊瑚(さんご)が砕けてできた砂が堆積して形成されている。三角帆を張った船・ドーニに乗って洋上から眺めても、ヤシの木がなければ島に気づかないほど、標高は低い。島の高さは平均一メートル未満、最も高い地点でも三メートル足らずしかない。

 科学者らでつくるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は一九九五年に「地球温暖化の影響で二一〇〇年に海面が平均五十センチ上昇する」という予測を報告している。「IPCCの予測が現実になれば、わが国の八〇%はインド洋に水没してしまう」。ハッサン大臣は危機感をみなぎらせて語った。

 モルディブの人々の脳裏からは、今も八七年に島を襲った原因不明の高潮のことが消えない。三メートル以上の高波が押し寄せ、マーレ島は三分の一が水没した。空港施設の一部や家屋が軒並み水浸しとなり、被害額は六億円に達した。

 政府が八八年から日本の無償援助四十五億円を使い、マーレ島の周りに、高さ五メートル、総延長三キロのコンクリート護岸を施し、沖合に消波ブロックを敷き詰めたのも高潮への危機感の表れだ。七十余りのリゾート島では、景観に配慮して消波ブロックの代わりに珊瑚の固まりを据えたが、資源環境企画省の地球温暖化問題担当者、シマッド・サイードさんは「水面そのものが上昇すれば、護岸も無力。高潮の悪夢の再現を防げない」と不安を語る。

 サイードさんは地球温暖化による干ばつなどの異常気象や海流の変化についても心配する。「飲み水を雨水に頼るモルディブでは、降水量の減少は死活問題。貴重な井戸も海面上昇による圧力で海水が混入しかねない。すでに海流が変わって砂浜が大きく後退、ヤシの木が倒れる被害が出ている」

 ■先進国の責任は大

 人口二十六万人のモルディブは漁業と観光産業でGDP(国内総生産)の三割を占める。電力の多くをディーゼル自家発電などに依存し、発電能力は日本の三千分の一以下。自動車の保有台数も二千六百台余りで、マーレ島にさえ信号機がないほどだ。日本のCO2排出量が世界の排出量の四・九%を占めるのに対して、モルディブのCO2排出量は〇・〇〇〇五%以下にすぎない。

 マーレ島の魚市場で、カツオをせりにかけていた漁師のアブドゥル・マヘルさん(48)は「地球温暖化は先進国の責任だと思う。だが、最初に被害にあうのは私たちの家や村で、それを防ぐ手段がモルディブ人にはない」と憤った。

 南太平洋やカリブ海などの三十五の島国と小島嶼(しょ)国連合(AOSIS)を結成したモルディブは九四年以来、先進国に対し二〇〇五年までに九〇年水準に比べCO2排出量を二〇%削減するよう求め、十二月の地球温暖化防止京都会議でも強く主張する方針だ。

 「地球温暖化の影響は先進国では実感しにくいかもしれないが、我々は黙って破滅を迎えるわけにはいかない」。ハッサン大臣は「先進国、とりわけ日本には同じアジアの一員として、我々の切実な訴えに耳を傾けてほしい。京都会議の結果が民族存亡のかぎを握っているのです」と、言葉に力をこめた。


                
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