Kyoto Shimbun 1997.7.5

 よみがえれ 環境 第3部
 


<9>
アメリカ(下)

CO2削減で綱引き

 「合衆国は戦争に負けたことはないが、条約交渉は勝ったためしがない」

 昨年九月の米上院本会議で、ジェシー・ヘルムズ上院議員は、ジュネーブでの気候変動枠組み条約第二回締約国会議に出席した政府代表団を激しい言葉で非難した。「私が上院外交委員長である限り、米国に不利な条約は絶対に批准させない」

 米国の上下両院では、ヘルムズ議員らの野党・共和党が過半数を占め、クリントン大統領は、与野党の意向に気遣いながら、微妙なバランスの上で政治運営を迫られている。

 ●規制の動きけん制

 地球温暖化問題では、共和党の支持基盤でもある電力、鉄鋼、自動車など有力企業約五十社は一九九二年に産業NGO「地球気候連合」を結成。ジャック・シース代表は「CO2の排出規制は生産コストを引き上げる。米国企業は中国など途上国との貿易競争に敗れ、米国は二流国家に転落する」と、産業界の危機感を背景にCO2排出規制の動きをけん制する。

 大統領は、身内の民主党の支持母体・全米労働総連盟からも「途上国が有利な温暖化対策には反対。失業の増加につながる」と突き上げを受ける。

 クリントン政権では、環境団体の厚い支持を受け「環境派」を自負するゴア副大統領が地球温暖化対策を取り仕切っているが、四年前に新エネルギー税を提案し、議会で総攻撃を浴びた苦い経験がある。

温暖化対策を巡って産業界と環境団体の激しい攻防が展開される米議会の聴聞会(米国・ワシントンの下院ビル)
 「温暖化防止のために炭素税などを導入し、エネルギー価格が上がれば、国民の人気は落ちる。逆に、産業界に迎合すれば、最も固い支持層の環境保護団体にそっぽを向かれる。二〇〇〇年の次期大統領選を控え(最有力候補者の)ゴア副大統領は窮地に陥っている」。カールストン大のデール・ジャミエソン教授(政治倫理)は分析する。

 地球温暖化防止京都会議に向けての政策立案者である国務省大気海洋環境局のアイリーン・クロッセン局長は「環境政策に市民の強力な支持がある欧州とは事情が違う」と、CO2の大幅削減を打ち出しにくい国内事情を言う。

 米国が今年一月に発表した議定書案は、具体的なCO2削減の数値目標を示さずに「途上国もCO2削減の責任を負う。CO2排出権の国際売買を認める」とし、産業界の意向を反映した内容だった。

 クロッセン局長は「これなら米国議会も批准する」と自信をみせるが、環境団体「自然資源防衛会議」のダン・ラショフさんは「経済崩壊でCO2排出量が減っているロシアから排出権を安く買い上げ、実際には米国が排出削減をしないで済ませようという産業界向けの譲歩案」とみる。

 ●数値目標に触れず

 CO2削減を巡って環境団体と経済団体の綱引きが激しくなる中で注目されたのが、六月下旬にニューヨークで開かれた国連環境開発特別総会でのクリントン大統領の演説だった。

   総会に先立って、大企業の経営者グループ「ビジネス円卓会議」は有力新聞に「経済と環境のバランスを」と意見広告を次々と掲載し、過半数の上院議員も連名で「米国経済を傷つけるような議定書は批准しない」という国会決議を提案。一方、環境団体は議会やホワイトハウスへのロビー活動を強めていた。

 「大統領は心の中では温暖化防止のリーダーシップを取りたいと思っているはずだが、民主党は昨年、ビジネス円卓会議から十数億円の選挙資金をもらっている。これでは経済界の圧力をはね返せない」。環境団体「オゾン・アクション」のクリス・パターソンさんは嘆く。

 六月二十六日の国連特別総会。クリントン大統領は「米国が責任を果たすには、まず国民と議会を説得しなければならない。地球温暖化問題に関するホワイトハウス会議を秋にも招集する」と、温暖化問題に取り組む決意を表明したが、CO2排出削減の数値目標には触れなかった。

 京都会議の鍵を握る米国の具体的な方針ははっきりしないまま、十二月の会議まで残された交渉時間は五カ月を切った。

第3部 おわり


                
▲INDEX▲