Kyoto Shimbun 1997.2.17

  よみがえれ環境 第1部
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鳴かない砂浜

 排水流し続けて…

巻き貝、二枚貝、傘貝…。角海浜の岩場には、50種類以上の微小貝などが生息している(新潟県西蒲原郡巻町)
 冬の日本海では珍しく、晴れ間が広がった新潟県巻町の角海(かくみ)浜。三方を山で囲まれた海岸線500メートルほどの小さな砂浜は、30年余り前まで「キュッ、キュッ」と独特の音を出す鳴き砂で親しまれた。

 同町の自営業遠藤寅雄さん(49)は、休みの度に、仲間と一緒に海の水と砂浜を調べに出る。かつて1メートル以上、透き通って見えた海の水も、今では底から黒い泥が巻き上がり、ほんの10センチも見えなくなった。「汚したのは私らだ。だれもいない海に、農業排水や生活排水を流し続けた」

 全国への行商で知られる「越後毒消し」の発祥の地の巻町は、1960年代以降、水田のほ場整備に伴って大規模な排水路が作られ、新潟市近郊のベッドタウンとして住宅開発も進んだ。泥を含んだ農業排水や大量の生活排水などが日本海に流され、海と砂浜が汚れた。

 ■住民は次々と離村

 ゲタで歩くと小気味よい音をたてていた鳴き砂は60年代半ばから鳴かなくなった。約100世帯を超える集落だった角海浜の漁村も、イワシ、サケ、ボラなどの魚が捕れなくなり、住民は次々と村を離れ、やがて廃村になった。

 忘れ去られていた砂浜は69年、原発の建設予定地として発表され、突然、注目を浴びる。遠藤さんら町民有志は砂浜の共有地に小屋を建て、反対運動に乗り出した。「原発の建設で環境が破壊されると訴えた。でも、守るべき自然ってなんだろう」。遠藤さんは泥やゴミ、流木で汚れた海を前に考え込んだ。

 原発建設の反対運動とともに、遠藤さんらは「角海の鳴砂をよみがえらそう会」を作り、砂浜の浄化を訴える。昨年8月、原発建設の是非を問う全国初の住民投票が行われ、反対票は6割を超えた。角海浜への原発建設は、もはや困難な状況だ。

 ■水が汚れ泥が付着

 石英粒の摩擦によって音をたてる鳴き砂は、京都府網野町の琴引浜など全国25カ所にあることが知られている。冬の荒波で浜が削れ、遠浅の沖合で砂が洗われる。春先になって、洗われた砂が再び浜に戻る。こんな繰り返しで、数千年、数万年もかけて、鳴き砂は作られた。

 その鳴き砂の音が多くの浜で濁り出した。砂浜は次第にやせている。全国の鳴き砂を調査した三輪茂雄・同志社大工学部教授は「水が汚れ、砂に泥が付着して、どこの浜も音が悪くなっている」と嘆く。

 それに今、遠藤さんが気が気でないことが起きている。島根沖で沈没したロシア船籍タンカーから流出した重油は東北の沖合いまで流れ、角海浜から西約2キロにある隣の浜にも、重油の塊が漂着した。「角海浜にも流れつかないか」

 角海浜の鳴き砂は、三輪教授が1980年、コップ一杯ほどの汚れた砂を採取して泥を丁寧に洗い落としたら、数10年の歳月を経て、澄んだ音がよみがえった。遠藤さんはその砂を大切に保管している。

 「私らが海に流し出す水をきれいにすれば、時間はかかるかもしれないが、きっと砂も鳴くようになる。この浜に、まだ小さな生き物がいっぱいいる。浜は生きているんです」。遠藤さんが「見てください」と差し出す手の上で、小さな巻き貝や二枚貝がピンク色に輝いた。


                
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