よみがえれ環境 第1部
眼下に天橋立を望む峠近くで、ミズナラの木々がチリチリとカールした茶褐色の葉をだらりと下げ、枯れていた。黒ずんだ葉はゴワゴワと異様な感触がする。昨夏には青々とした葉を付けていたというのに、付近一帯は立ち枯れしたミズナラ、コナラがそこかしこに見られ、この尾根だけで30本はある。 大宮町関係者の話では、この林道沿いのナラの立ち枯れは1992年ごろから徐々に始まり、95年ごろから急激に広がった。すでに400ヘクタール以上の山林で確認されている。 6月から9月ごろにかけて、青々としていた山林が突然、紅葉する。「葉がチリチリになって2週間も経たないうちに黄色になり、すぐに赤く変わって最後は黒くなる」。「丹後きのこクラブ」会長の大工田中明男さん(44)=大宮町=は「ここ数年の集団立ち枯れは異様。最初は高地だけだったが、今では里まで枯れ始めた。健康な木を探す方が難しい」と心配する。 ■被害、急激に拡大 国内では80年代から、針葉樹のマツの集団枯死が席巻した。90年代に入って、コナラやミズナラなど広葉樹の立ち枯れが、日本海側から急激に全国各地に広がっている。関西総合環境センター生物環境研究所(宇治市)によると、山形、新潟、石川、滋賀、京都、兵庫、鳥取、宮崎など15府県以上で被害の報告が寄せられている。 海外でも、80年代後半から、カナダ、米国、イタリア、オランダ、オーストリア、ドイツ、ポーランド、ハンガリーなど欧米を中心にナラ類が枯死する深刻な被害が相次いだ。 丹後半島のナラの立ち枯れの直接的な原因は、全長3ミリほどの甲虫のカシノナガキクイムシが食い荒らしての水枯れ。しかし、同研究所の小川眞所長は「樹液を出すような元気な木には虫が入らない」と、別の要因を指摘する。 ナラの立ち枯れは、異常乾燥などの説もあるが、小川所長らは、地球規模の大気汚染による酸性雨と酸性雪が大きな原因ではないかと考えている。雨や雪に溶けた硝酸や亜硝酸によって土壌が汚染し、ナラと共生していた菌根性キノコが死滅。菌糸の助けで養分や水を吸収していた樹木の根が腐ったという。 田中さんらの「丹後きのこクラブ」の調査でも、ナラと共生するフウセンタケやチチタケなどが姿を消し、山林のキノコは種類、数とも激減していた。 「環境汚染に敏感な樹木から、順番に枯れているのではないか。たまたま、マツにマツノザイセンチュウ、ナラにカシノナガキクイという、トドメを指す虫がいただけ」と小川所長。 ■山から逃げ出す? 約2年前から、丹後半島で、ブナが一斉に実を付けた。マツが小さなマツカサを数多く付けたり、クリが異様に実を付ける現象も見られる。京都市近郊でも、同じ傾向が出始めているという。 「樹木は自分で動けない。子孫を他に残そうと、山から逃げ出しているのかもしれない」。小川所長は、マツやナラから、シイ、カシ、ブナ、スギへと、立ち枯れのドミノ倒しが始まるのではないかと危ぐしている。
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