Kyoto Shimbun 1999.2.3 【京都経済 再生】
 第5部 ものづくりの挑戦 <2>  職人の技

 付加価値で世界へ
 新分野へ対応も必要

 昨春、京都市上京区の機械部品加工メーカー、井元製作所に一枚のファクスが届いた。送り主は、最先端研究で知られる米国・マサチューセッツ工科大学(MIT)。 同社が開発した筋肉の硬さで疲労度を測定する筋弾性計を「研究機材に使いたい」との連絡だった。初めての自社開発製品への反響だけに、開発担当の井元俊之常務は「夢にも思わぬ朗報だった」と感激を語る。

高い職人技術に支えられた中小企業。新たな分野、販路への対応が迫られている(京都市上京区)
 同社は社長以下二十人の典型的な町工場。約三十年前、三代続いた西陣織の織機メーカーから、理化学機器などの部品下請け加工に転換した。

 筋弾性計は、井元常務が元国体水泳選手の経験を生かし、三年がかりで開発した。筋肉部に押し当てたばね軸の沈み具合で硬さを測定する仕組みで、精密に組み合わせた大小二本の軸のズレを計ることで、精度の大幅アップに成功し、実用化にこぎつけた。うち一基がMITに送られ、脳機能解明の研究に活躍している。

 井元常務は「製造現場だからこそ、技術開発が可能だ。円高不況で海外移転も考えたが、技術力で付加価値を高めればやっていける」と自信を深める。

 技術立国支え

 日本の中小企業は戦後、親企業との安定した受・発注関係の下で、製造技術に専念し「技術立国」を支えてきた。しかし、国際競争による大企業の下請け再編の波にさらされる中、特化した製品技術を新たな分野、販路に生かす対応力が求められ始めた。

 京都市右京区の染色メーカー、藤井染工は、アトランタ五輪で銅メダルを獲得したシンクロナイズドスイミングをはじめ、日本水泳陣の水着染色をほぼ一手に引き受けている。極限まで水の抵抗を減らした超極薄のハイテク繊維を染め抜くのは、京友禅の伝統を引き継ぐ職人たちの手捺染(てなせん)技術だ。藤井隆三社長は「機械に頼らない多彩な染めの技術と経験を持つ職人の力があってこそ」と話し、新素材への染色技術に応用している。

 技伝承に懸念

 大量生産型の産業都市と異なり、独自技術を誇る多品種少量型のメーカーが多い京都だが、激しい競争を生き抜くには、中小企業にも一層の生産合理化と技術開発の両立を迫っている。

 一枚の金属板を継ぎ目なく延ばす「ヘラ絞り加工」を得意とする西垣金属工業(南区)は、発注企業との間で設計図を直接伝送できる三次元CAD(コンピューター設計)を導入し、航空機部品などの新規受注を広げている。その一方で、西垣亮社長は「一品ずつ勘を働かせて高精度の加工ができる熟練工が少なくなっている」と懸念し、職人技術の伝承に向けて今春、新入社員四人を迎える。

 府中小企業総合センターは昨年九月、設計データから製品の樹脂見本が自動的にできる高速三次元成形機を導入し、企業への貸し出しを始めた。大企業に比べて設備や開発資金に乏しい中小企業を支援するためで、同センターの小柳信介課長は「製品開発のスピードを速めながら技術分野の再構築を図る必要がある」と説明する。

 京都は、染織、陶磁器などの伝統産業を背景に、京セラや村田製作所といったハイテク企業を生んだ。世界で競争できる付加価値の高い産業都市づくりへ今、中小企業に息づく現代の職人技が求められている。


▲もくじ▲  ▼つぎへ▼