Kyoto Shimbun 1998.5.5
京都経済 再生
 景気回復への歯車が、少しも動かない。十六兆円の総合経済対策にも、株価は反応せず低迷し、為替相場も円安に振れたままだ。消費の冷え込み、金融システム不安などをきっかけとした景気の後退は、じわじわと地域経済にダメージを与えている。とりわけ中小企業が多く、構造問題を抱える和装関連を基幹産業とする京都経済の現状は、深刻さを増すばかりで、地盤沈下が続いている。だが、千二百年の歴史が培った伝統産業の匠(たくみ)の技や観光資源、幾多の大学を核とする先端開発の精神など、京都の潜在力は、いまも高い。こうした力を、どう引き出し、二十一世紀につなぐかが「京都経済再生」のかぎを握っている。
(政経部「京都経済再生」取材班)
 プロローグ 
 生かせるか高い潜在力

21世紀に向けて、京都の地域経済 
はいま、正念場を迎えている(山 
科区・将軍から京都駅方面を望む)
 不況は日増しに

 今年三月末、京都共栄銀行(京都市下京区)で支店長を務めた幹部社員(54)が、今秋予定の幸福銀行への営業譲渡を待たず退職した。幹部社員は、経営破たんが明るみになった昨年十月、「予期していたものの、ついに破たんが現実のものとなった」と衝撃を受け、銀行への失望と先行きに対する不安の中で退職を決意。ほぼ一カ月後から、再就職活動を始めた。

 「中高年の再就職の厳しさは覚悟していたが、これほどとは思わなかった」。幹部社員は人材銀行や民間の職業あっせん会社に通い、求人先二十社に履歴書を送ったが、次々と断りの通知が来た。面接にまでこぎ着けたのはわずか三社だった。

 銀行員としての年収は約一千万円だったが、求人先の提示する給与はその半分以下。「自分の位置が、どの程度だったのか、つくづく思い知らされた」という。幹部社員はようやく四月一日、銀行員の知識、経験が生かせる京都府内の商工団体に再就職した。

 総務庁が四月二十八日発表した三月の完全失業率は、過去最悪の三・九%。企業のリストラなど雇用調整圧力の根強さを裏付けた。京都の有効求人倍率は〇・四三倍(全国〇・五八倍)とバブル崩壊直後の水準で、特に四十五歳以上の同倍率は〇・二倍前後と厳しい。稲盛和夫京都商工会議所会頭は「不況は日増しに深刻さを増している。失業率は、まだまだ高くなるだろう」と予測。八〇年代の米国を例にあげ「規制緩和がベンチャーを創出、雇用を吸収していった。今、日本に求められているのは新しい産業の勃興(ぼっこう)だ」と指摘する。

 相次ぐ公開延期

 第三次ベンチャーブームといわれながらも、株式公開を進めていた京都企業数社が昨年秋から今春にかけて、株式上場や店頭公開を一時延期した。

 着物総合卸大手のウライ(京都市下京区)も、その一社。十年前から店頭公開を考え、着々と準備を整えてきた裏井紳介社長(49)は「公開の夢は捨てていないが、これだけ市場が冷え込んではメリットがない」と延期の理由を話す。また、新規上場を目指していた右京区の健康食品メーカー社長も「上場後の株価下落も予想され、株主に迷惑をかけることになりかねない」と上場を見合わせた。

 株式公開は、企業家なら一度は目指す目標の一つ。市場からの資金調達を容易にするばかりか、企業の社会的地位を向上させる。「着物問屋は消費者には見えにくい黒子。公開で社会的認知度を高め、人材確保面でもプラスになる」(裏井社長)という。

 だが昨秋以降、相次ぐ金融機関の破たんで、株式市場は急速に冷え込んだ。公開を表明していながら、全国で二十四社(上場三社、店頭公開二十一社)が公開を一時延期。この結果、昨年の新規公開会社は、前年に比べ二十一社少ない百七十二社となった。

 京都証券取引所では、オムロン、任天堂、村田製作所などの上場が相次いだ六〇年代初めが第一次公開ブーム。バブル崩壊で上場機運に水を差したものの、九五年から再びブームに火がついたばかりだっただけに、公開延期は証券関係者にショックを与えた。

 打撃受ける西陣

 「消費税引き上げの影響は、夏までに収まるのでは」。昨年四月の消費税引き上げを前に、日銀京都支店の堀江久男支店長(当時)は、こう予測していた。ところが、個人消費の落ち込みが本格化し始めたのは昨秋から。「景気は緩やかに回復」と九五年一月から言い続けていた同支店は、昨年九月以降、「回復に減速感」、「停滞感強まる」と見通しを変更していく。

 消費の落ち込みで、最も大きな痛手を受けているのが西陣産地。昨年の帯地出荷高二百二十四万本、出荷額七百五十八億円は、いずれも前年に比べ一割強の減少で、特に十一月以降は二割を超す大幅な落ち込みを続けている。

 戦後最悪だった昨年の府内の企業倒産(四百五十五件)でも、繊維関連が九十三件で、建設の百十二件に次いで二位。年明け後も、中堅呉服卸問屋(中京区)が、東京の呉服チェーンの倒産のあおりで負債約二十七億円を抱えて自己破産を申請、府内の企業倒産は、年初から毎月過去最多を更新するなど、信用不安が広がっている。渡辺隆夫西陣織工業組合理事長は「公共投資といえば土木・建築ばかりだが、地域の実情にあった投資を」と注文する。

和装深刻、ハイテクも

 消費の低迷は、地場産業ばかりか景気のけん引役を果たしてきたハイテク産業にも忍び寄る。制御機器大手オムロンの立石義雄社長(京都商工会議所副会頭)は「昨秋以降、アジア経済危機などが響き、企業の合理化・省力化投資にも陰りが出ている。景気は後退局面へ向かっている」と指摘。島津製作所の藤原菊男社長(次期京都工業会長)も「物価の下落と景気後退が連鎖するデフレ・スパイラルの懸念もある。経済政策不況ではないか」と批判する。

 大手メーカーを支える中小企業の間には、国際競争の激化に伴う受注減と親企業からの値下げ要請が相次ぐ。京都の民間信用調査機関は「リストラも限界。今のうちに会社整理を、と考える中小業者も目立ってきた」と動向を注目している。


▲INDEX▲  ▼つぎへ▼