The Kyoto Shimbun

電圧駆動のスピーカー

栄進電機京都市伏見区深草フチ町

 厚さ7・5ミリ、直径5センチの丸い板をこめかみ付近に当てると、マイクを通じて相手の声が鮮明に聞こえる。内蔵している厚さ150マイクロメートル程度の超薄型セラミックに自社開発のアンプ(増幅器)から電圧をかけて、音の振動を耳の中枢器官である蝸牛(かぎゅう)に伝える仕組み。鼓膜や音の振動を大きくする耳小骨など耳の一部器官に障害がある人との会話に役立つ。この小型の聴覚補助具「骨伝導スピーカー」は、超薄型セラミックを使った電圧駆動方式によって実現した。来年2月に公共施設や病院、各種店舗向けに発売する。

 市場調査によると、国内の潜在的な難聴者は600万人に上るが、補聴器の昨年の販売台数は46万台に過ぎない。この数字のギャップに岩内義夫社長(67)は着目した。「市場はあるのに、既存の補聴器が高額なため利用者が少ない。従来器に比べてほぼ半額の新しい骨伝導スピーカーなら、耳の不自由な人にとってめがね感覚で使ってもらえる」と期待する。

 岩内社長は大手制御機器メーカーに約20年間務め、センサーの設計開発を手がけてきた。だが起業の夢を実現するため1984年に退職し、会社を設立した。当初は出身企業の協力会社だったが、2002年から独自の研究開発に乗り出した。

 最初に商品化したのは、さまざまな物体に張り付けて使う「アタッチャブルスピーカー」だった。机や箱などに張るとその物自体がスピーカーに変わり、コンポやテレビなどの音を発する。聴覚補助器にもこの仕組みを応用した。

 用途は広がっている。自動車の窓に内側から張っておけばドアをこじ開けようとする音が鳴り響く防犯用品や、枕の中に埋め込むと周囲に音漏れなく映画などを鑑賞できる装置などに向けOEM(相手先ブランドによる供給)販売している。

 中核部品のセラミック圧電体は、部品メーカーの新世(山形県米沢市)から調達している。電圧でセラミック自体が動き、接触している物に音の信号を伝える構造になっている。  


製品化した骨伝導スピーカー。新しい聴覚補助具として普及を目指す岩内社長(京都市上京区・西陣IT路地)
 現在主流のスピーカーは電磁石やコイルを使う電流駆動方式で、薄型化や低価格化が難しい。一方、セラミックは重低音に弱い欠点があるものの、反応性が高く音切れがないうえ、電磁波も出さないという。

 岩内社長はこのセラミックの圧電体に早くから目を付け、本格的な小型スピーカーシステムへの応用に不可欠なアンプを独自に開発した。設計や部品の工夫でマッチ箱の半分程度まで小型化を可能にした。フィルター部品を搭載し、さまざまな騒音も除去した。音を制御するアンプとスピーカーという2つの中核技術の組み合わせが新しい製品を生み出した。

 ビジネスプランや製品は京都府や京都市など幅広い公的認証を受け、市場開拓に活用している。3年間入居したベンチャー支援施設の西陣IT路地(京都市上京区)には現在も販売の関連会社を置いている。岩内社長は「小さな装置でも高品質な音を楽しみ、心を癒やしてもらえるようにこのスピーカーを普及させたい」と新しい音響システムを提案している。

[京都新聞 2007年12月9日掲載]

毎月第2日曜日に掲載します。

≪メモ≫栄進電機
1984年に設立。97年に株式会社化した。資本金1000万円。従業員5人。音響機器のほかLED(発光ダイオード)を使った光源なども開発販売している。2007年9月期の売上高は2500万円。

いろいろな物に張り付けて使うアタッチャブルスピーカー

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