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にごり生む「中汲み」

増田徳兵衛商店(京都市伏見区)

 酒蔵の2階奥。筒状の甕(かめ)には41年間、毎年仕込み貯蔵してきた吟醸酒の「古酒」がぎっしりと並ぶ。14代目の増田泉彦社長(52)は「全国蔵元に先駆けてにごり酒を復活させたころから、古酒にするため寝かせてきたんですよ」とそっと甕に手を添えた。

 江戸時代に創業した伏見の蔵元、増田徳兵衛商店。「月の桂」の銘柄で知られ、看板商品がどぶろくを思わせるにごり酒だ。「お酒の博士」と称された坂口謹一郎・東京大名誉教授のアドバイスを受けて、先代が1966年に開発。米などの原料や製造法にこだわった本格志向の日本酒が注目されるなか、にごり酒のパイオニアとして日本酒愛好家らに親しまれている。

 にごり酒は、酵母や酵素を生きたままでびん詰めした生酒。見た目が乳白色で、シャンパンのような発泡性とフルーティーな味わいを兼ね備える。米と麹(こうじ)でしこんだ原酒を粗い目で搾り、火入れによる熱殺菌をせずにびん詰めすることから、この特性が生まれる。

 この酒の醸造方法のポイントは原酒の搾り方にある。同社は「中汲(く)み法」と呼ぶ独自の方法を採用。これに欠かせないのが、ステンレス製の長方体の搾り器だ。縦横60センチ、長さ2メートルの長方形の側面4面には、メッシュ状に無数の穴が開いている。穴の大きさ(2ミリ、1・5ミリ)は2種類あり、これを原酒の仕込みタンクに投入。縦横60センチの側面2面にはふたがなく、ここからポンプを差し込んで酒を吸い上げて汲み出す。

 にごり酒は、酵母などを含んだ乳白色の色合いや炭酸ガスを含んだ鮮度が特徴で、原酒をいかに適度にかつ迅速に搾るかが、品質の良しあしを決める。中汲み法は、タンク一本で1200キロを仕込んだ場合、2時間ほどの短時間で、酸化を促す空気に触れずに適度の酒かすを取り除くことができる。昔ながらの杜氏(とうじ)による酒造りを続ける蔵元であるゆえに、増田社長は「長年この蔵で酒造りを続ける杜氏らが、この道具を使いこなすことで、多様なにごり酒を生み出せる」と話す。  


古酒を貯蔵熟成する酒蔵。2カ月後ににごり酒や古酒用の日本酒の仕込みが始まる(京都市伏見区・増田徳兵衛商店)
 日本人が古来親しんでいた古酒づくりも手がけている。古酒「琥珀(こはく)光」は最高級酒米の山田錦や伏見の水でつくり、特別に焼かせた多治見焼の甕に入れて、10年は熟成する。琥珀色でまろやかな味わいの酒は、パリの高級ホテル・リッツカールトンにも認められ、納入している。増田社長は「じっくり育てた本物志向の日本酒は高級ワインにも匹敵する評価が得られた」と誇らしげだ。

 日本酒の国内消費量は長期低迷が続くが、純米酒など原料や製造法にこだわった「特定名称酒」の人気は高まっている。中小蔵元であることを逆手にとって、特定名称酒に特化した少量多品種の酒造りを進めてきた増田社長は「このスタンスを守りつつ、差別化するための個性をいかに表現できるか。古代米の黒米を用いた黒いにごり酒もおもしろいかも」と、秋の仕込みシーズン到来を待ちわびている。

[京都新聞 2007年8月19日掲載]

 脈々とものづくりの技が受け継がれている京都と滋賀には、こだわりの技術を磨き上げ、業績を伸ばしている企業が数多くある。大手企業の製品を影で支える京滋の中小企業の独自技術に光をあて、ものづくりの原点を探る。  毎月第3日曜日に掲載します。

≪メモ≫増田徳兵衛商店
1675年創業、1953年会社設立。資本金1000万円。従業員7人。2007年6月期で売上高約3億円。にごり酒や古酒のほか、京都府が開発した酒米「祝」が原料の純米吟醸酒、低アルコール純米酒も販売している。

全国蔵元に先駆けて開発販売したにごり酒や古酒

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