The Kyoto Shimbun

伝統、先端の技で修復

大入(京都市中京区)

 虫食いだらけの和本に、若い職人が切り抜いた和紙をあてがう。先がとがった金属製の棒で和紙を表面にこすりつけると、みるみるうちに虫食いがふさがっていく。

 「触ってみて」。品川晃二統括部長(52)が修復を終えた和本を差し出した。補修した部分に触れても、でこぼこした感じはまったくない。穴をふさぐだけでなく、古びた風合いを出したり、墨筆の跡を再現するなどして、見た目も自然に見せることができるという。

 文化財の修復や保存を手がける大入(おおいり)にとって、虫食い補修は数ある技の一端でしかない。全国の大学図書館や博物館、社寺から持ち込まれる文化財は、和本以外にも絵画や経巻、革装本、乾漆品など、多岐にわたる。その都度、蓄積したノウハウから最適な手段を選びだして対応している。

 作業はまず、保存計画を立てることから始まる。修復方法は文化財の価値や傷み具合、予算などの兼ね合いから判断する。ちょうど患部の診断から治療法を決める医師に似ている。品川部長は「貴重な文化財をどうやって後世に伝えるかが計画の主眼になる」と話す。


和本の虫食いに和紙をあてがい、補修する大入の社員(京都市中京区)
 計画が決まると実際の修復に入る。色がはげ落ちた絵画は、水を含ませた紙で表面をふいたり、和紙をあてて塗り直すなどして元の状態に戻す。傷んだ紙は、同じ材質の和紙を張って補強する。修復を終えると、ぼろぼろだった肖像画や本が、魔法をかけられたように本来の姿を取り戻す。

 修復だけでなく、作品の複製も請け負う。専門の写真家に依頼して撮影したり、スキャナーにかけるなどして、原寸大に印刷する。作品を忠実に再現するため、彩色や金ぱく張りなども行う。

 昨年は、特殊なスキャナーをつくるメーカーと組み、妙法院(京都市東山区)が所有する重要文化財「後白河法皇像」の複製に挑戦。本物そっくりに再現して声価を高めた。品川部長は「修復を通じて実物を知っているからこそ、精巧な複製が作れる」と胸を張る。

 会社を語るうえで欠かせないのが、奈良時代から続く「経師(きょうじ)」という仕事とのかかわりだ。経師はもともと写経をなりわいにしていたが、平安時代にはお経を巻物に仕立てる装こう、木版印刷が発達した室町時代には本の装丁と、仕事の幅を徐々に広げていった。大入達男社長(56)もまた、父親から経師の仕事を受け継ぎ、1987年に株式会社を設立。蓄積した技を生かして文化財の修復や保存を手がけ始めた。

 「平成の経師」を自負する大入社長は「伝統産業の保護というが、それだけでは先細りが避けられない。築き上げた技をベースに、新しい材料や技術を取り込むことが大事だ」と話す。同社では実際、赤外線を用いた分析手法や逆浸透水による修復方法などを取り入れてきた。技術の伝承と革新を繰り返しながら、文化財を守る仕事を後世に伝えようとしている。

[京都新聞 2007年10月21日掲載]

 脈々とものづくりの技が受け継がれている京都と滋賀には、こだわりの技術を磨き上げ、業績を伸ばしている企業が数多くある。大手企業の製品を影で支える京滋の中小企業の独自技術に光をあて、ものづくりの原点を探る。  毎月第3日曜日に掲載します。

≪メモ≫大入
1951年創業。資本金1000万円。従業員35人。2007年6月期の売上高は約4億円。文化財の修復や複製のほか、保存容器の製作や和本の装丁なども手掛けている。

大入が修復した和本の一部。右側のページは補修前で虫食いが残っているが、左側は穴がきれいにふさがっている

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