Kyoto Shimbun 1998.11.26
歌舞伎界の大名跡、片岡仁左衛門の十五代目襲名披露となる「當る卯歳 吉例顔見世興行」が三十日、京都・南座で開幕する。顔見世での襲名披露口上は、平成三(一九九一)年の三代目中村鴈治郎以来。二十五日には、京都にゆかりの深かった亡父十三代目の最後の舞台から、五年ぶりに仁左衛門のまねきが上がる。今年一、二月の東京・歌舞伎座を手始めに、大阪、名古屋と続いた襲名披露の締めくくりの大舞台だ。新仁左衛門のインタビューをまじえて、東西の名優をそろえた今年の顔見世の見どころを紹介しよう。
「廓文章」上方和事の代表
幕開きを飾るのは上方勢が出演する「佐々木高綱」。源平の合戦で名高い武将の葛藤(かっとう)を描いた時代物だ。頼朝への忠誠が報われず、苦悩の末に出家する高綱を仁左衛門の兄である片岡我當が初めて挑む。高綱が殺した馬飼いの子・子之介に中村翫雀、姉おみのに片岡秀太郎、高綱の娘薄衣に片岡愛之助といった面々だ。 続いて市川團十郎家の芸とされる歌舞伎十八番のうちから「鳴神(なるかみ)」。高僧鳴神上人(團十郎)が美女絶間姫(中村時蔵)の色香に迷って、その法力を破られ、ついには怒り狂うという人気狂言。女形の気品と色気や團十郎がみせる荒事芸が見どころとなる。 舞踊の「二人椀久(ににんわんきゅう)」は、別れた恋人の面影を追いさまよう椀屋久兵衛の前に、当の松山太夫が幻として現れ、廓での思い出や色模様をみせる名作。同作品では当代きってと評される中村富十郎と中村雀右衛門の人間国宝コンビが踊る。 切りの「廓(くるわ)文章」は、通称「吉田屋」で知られる上方和事の代表作。勘当された若旦那伊左衛門(仁左衛門)と遊女夕霧(中村鴈治郎)との、見栄や嫉妬などが入り交じった恋物語。吉田屋の主人喜左衛門に富十郎、その女房おさきに澤村田之助、太鼓持ちに片岡孝太郎。
「外郎売」祝儀ムードを盛り上げ
続いて、わが子を犠牲にしてまで武士道を立てた源平争乱時の空しさを描いた「熊谷陣屋」。源氏の将・熊谷直実は義経の意を受け、平敦盛の命を助け、息子を身代わりに、首実検に備える。仁左衛門演じる直実が敦盛を討った有り様を語る場面をはじめ、首実検で真相を明らかにする大見得や秀太郎演じる妻の相模が息子を亡くした悲嘆のくどき、無常を悟り出家した直実の述懐など、見せどころは多い。 本興行出演の名優がそろう「口上」のあと、大阪の商家を舞台にした人情ドラマ「酒屋」を上演する。酒屋・茜屋半兵衛(坂東吉弥)の息子半七(鴈治郎)には、お園(鴈治郎・二役)という女房がいるが、三勝(扇雀)となじみ、娘をもうけた。お園の父宗岸(我當)は娘を実家に連れ戻し、半兵衛も息子を勘当する。しかも半七は、三勝のことから人殺しの罪で追われるはめに…。お園がこぼした「今ごろは半七さん。どこにどうしてござろうぞ」のフレーズは、幕末から明治にかけて大流行した、という。 大切りは江戸期の庶民の風俗を活写した舞踊「団子売」。大阪・天満橋を舞台に、杵造(翫雀)とお福(孝太郎)夫婦が、臼と杵を持ち出して軽妙に踊り、正月気分で締めくくる。
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