独特のにおいと風味で日本人に敬遠されがちだった外国産チーズが最近、脚光を浴びている。チーズ売り場には、青カビびっしりやプンプンとにおい立つチーズがずらりと並ぶ。「チーズアドバイザー」なる資格を持つ人まで現れた。漬物など、とかく「におう物」を好むお国柄だけに、日本人の舌のストライクゾーンが広がったのかな? (社会部 渋谷哲也)
京都市中京区の会社員青木陽子さん(23)が「味」に目覚めたのは三年前の春、大学の卒業旅行でイタリアを訪れた時だった。レストランで、青カビが毛細血管のように生えている白いチーズが食卓に乗った。「これって食べ物なの」 イタリア産ナチュラルチーズ「ゴルゴンゾーラ」を初めて口に入れた青木さん「においはきついが、食べてみると実にまろやか」と感激したという。今ではクセのあるチーズの大ファンだ。「あのにおいと、濃厚さがたまらない」
チーズには、牛乳を微生物の働きで熟成させた「ナチュラルチーズ」と、ナチュラルチーズを溶かして熟成を止めて固めた「プロセスチーズ」がある。日本人になじみ深いのはプロセスチーズだ。 ところが、本場欧州産のナチュラルチーズが、かつてない勢いで日本に押し寄せている。
農林水産省によると、国内の昨年度のチーズ消費量は過去最高の二十 一万六千四百トンで、一九八五年当時に比べて二倍以上も伸びている、という。とくに、ナチュラルチーズは四年前にプロセスチーズのシェアを抜き、昨年度は全消費量の五二%を占める十一万四千三百トンになった。その約九割が輸入品だそうだ。
バブル経済真っただ中の八九年、東京に「チーズ&ワインアカデミー東京」という専門校が登場した。チーズのプロを目指す人のための講座を設けているが、若い女性を中心に受講者が年々増加しているという。 輸入のナチュラルチーズが、なぜ受けるのか。講座専任講師の山下基さん(66)は「バブル経済のころ、海外旅行で本場の味を知った人が増えたことに加え、チーズと相性のいいワインが人気だから」と説明する。バブル崩壊後も、さらに人気を博していることで「もう、一部の人だけが好むし好品ではなくなった」と強調する。
受講生の九割は趣味でチーズを楽しむ人という。講座修了後に試験を通ると、「チーズアドバイザー」の認定を受ける。今年夏にチーズアドバイザーになった大丸の奥村さんが、売り場でお客さんから受ける質問は「以前、店で食べておいしかったチーズはどれ?」「ワインに合うチーズを教えて」が圧倒的だ。 ゴルゴンゾーラ、マスカルポーネ、エポワース、プロヴォローネ…。聞いたこともない名前に加え、固体やらクリーム状やら、真っ白やオレンジ色があったりと、見た目も楽しいが、はんらんするチーズの品選びに混乱する人も多い。
チーズは一過性のブームなのか。奥村さんは「食べず嫌いの人が多いのではないか。チーズはカルシウムを豊富に含んでおり、健康志向の人にも受ける。需要はこれからもさらに伸びるでしょう」と推測する。 チーズフリークの青木さんも「ナチュラルチーズは温度や湿度で味が変わり、食べごろを見極めるのが特に難しい。だからこそ、チーズの楽しさや奥深さがある」と付け加えた。 こだわり派にも、そうでない人にも楽しめる食材として、輸入チーズはいとも簡単にわが国境を越えたことだけは間違いない。 |