Kyoto Shimbun 1998.8.5 気になるリポート

「加入権が安くならない」ワケ

 携帯電話のように普通の家庭用の電話が安くならないのはどうして? 取材中に読者からこんな疑問を投げかけられた。それは、そうだ。通話料は別として、携帯電話の値段は今やあってないようなものだ。携帯電話を買いに行って、本体が無料のうえに現金のプレゼントが付いてきて驚いた経験がある。ところが、一般の加入電話は七万二千八百円も必要だ。なぜだろう。
(社会部 日比野敏陽)


 なぜか“資産扱い”
 NTT「廃止したい」が…

電話加入権は「資産」か、そうでない
のか。論争をよそに電話の新しい機種
が次々と誕生している(京都市内)

 一般に電話の「加入権」と呼ばれているのは正式には七万二千円の「施設設置負担金」という。電話の設置時は、ほかに八百円の契約料が必要で、合わせて七万二千八百円かかる。この額は二十二年間、据え置かれたままだという。

 値下がりしないのは、一言でいえば、「電話加入権が資産として扱われているため」(NTT京都支店企画室の田中英夫広報担当課長)という。

 実際、電話加入権は資産差し押さえや相続税の対象にもなり、企業は財務諸表に資産として計上しなければならない。不要になった加入権を購入して別の人に売る「電話取引業」や、電話を担保に現金を貸す「電話金融」、下宿生など短期の利用者に電話を貸し出す「レンタル業者」などが存在するのも、加入権が「資産」として扱われてきたからだ。

 ところが、NTTは今、「負担金(加入権)を値下げするか廃止したい」(同社広報部)と公言する。ただ、現状は「取引業者などが存在し、急に廃止や値下げをすると衝撃が大きい」ことを理由に「軟着陸できる方法を模索している」のだという。

 その一環として、NTTは昨年七月から、設備設置負担金を無料にする代わりに、毎月の回線使用料に六百四十円を上乗せする総合デジタル回線の販売を始めた。総合デジタル回線は、一本で二回線分が使えて話し中が少なくなり、インターネットやパソコン通信に便利なため、一年間だけで全国で八万六千件もの契約があった。

 京都支店の田中広報担当課長は「インターネットブームを支えるためにも初期費用を安くする必要がある。負担金をなくしたわけではなく、九年使えば負担金を払ったのとほぼ同じになる。一度に払うか、毎月に振り分けて払うかの違い」と説明する。しかし、初期費用が無料という宣伝文句は、加入権の市場価格の下落を招いた。

 業者や加入者ら「価格」下落で反発も

 京都市上京区の電話取引業「ふじもと」の藤本昇専務は「加入権は三年ほど前は六万円前後だったが、今は四万円前後。東京方面では二、三万円というところもある」と証言する。「どの業者も『在庫』を抱えて飽和状態にあり、新規の買い取りは断っている。もう電話を担保に取れない」と嘆く。

 市場価格の下落は、大量の回線を抱えるレンタル業者にも脅威だ。大手「日本テレシス」(福井市)の松波亨哉社長は「電話回線の帳簿価格は十数億円に達している。償却できない資産として税金も支払っているのに」と批判する。

 NTTの加入電話は現在、全国で約六千万件ある。「資産」として換算すると四兆円を超す。これだけの国民の資産がいま、事実上目減りしつつあるというわけだ。

 「加入権は電電公社時代から資産として販売してきた。NTTの都合で値下げするなら、資産の目減り分は国民に返還されるべき」(松波日本テレシス社長)と主張する人も多い。日本消費者団体連絡会も「新規契約者にとって、外国に比べて高い負担が減るのは歓迎だが、すでに持っている人には資産価値が減るのは喜べない」と困惑する。だが、NTTは「七万二千円はあくまで設備や工事代金であり、全額が加入権ではない」と取り合わない。

 加入権は全国に電話網を広げるインフラ整備につぎ込まれ、結果的にNTT自体の事業拡大にも役立ってきた。

 その利益をどう加入者に還元するのが公平か。明快な解答のないまま、論争は当分、続きそうだ。


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