Kyoto Shimbun 1998.1.20 気になるリポート

「主婦が留学する」ワケ

 夫を日本に残して、海外留学する妻が増えてきた、という。子ども連れで海外へ飛び立つ元気な母親もいる。「学生時代の夢をかなえたかっ た」「わけの分からない焦燥感から逃げ出すため」。留学の動機はいろいろあるが、「自分の力でいまの自分を、環境を変えたい」という思いは共通しているようだ。妻たちの海外留学事情を探ってみた。

(社会部 焼石文雄)



焦燥感からの脱出
「夢 捨てきれない」

 京都府亀岡市出身の佐野みさ代さん(28)は、一九九五年夏から九六年秋にかけて、計三回延べ約一年間のカナダ留学を経験した。      

「海外留学をやり遂げ自信がつい
た」と話す佐野さん。語学力を生
かして、現在は建材輸入の仕事を
こなす(長野県上水内郡信濃町)
 海外留学を決めたのは、二十五歳の冬。結婚を機に仕事をやめて「専業主婦」になり、二年近くたったころだった。           

 「夫が仕事に出ると一人ぽっち。親しい友人はみんな、まだ働いている。世の中から取り残されているのではないか。自分の存在価値は何だろう」

 京都市西京区内のマンションの一室で、佐野さんは孤独感と焦り、むなしさにさいなまれて悩んだ末、学生時代から漠然とあこがれていた留学の道を選んだ。二歳年下の弟がカナダに留学していたことも、佐野さんの決断を後押しした。

 「なぜ留学なんだ。考えが極端過ぎる」。夫は初め留学に反対した。しかし、妻の願いを受け入れるようになり、最後まで海外留学を認めなかった佐野さんの両親を説得してくれた。             

 「語学力がついたというより、自分で決めた留学をやり遂げ自信がついた」  佐野さんは今、長野県内の建材輸入会社で留学経験を生かして働いている。

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 海外留学希望者の相談に応じているICS国際文化教育センター大阪支店(大阪市北区)によると、同社を通して留学した人は年間一万人で、うち約八割を女性が占めている。しかも、最近は女性が年齢にこだわらず留学するようになった、という。

 ICSの仲介で留学した人のなかには「短大時代の夢を実現させたい」と、三歳半の子を連れ二カ月間のアメリカ留学に出発した三十歳代の主婦もいた。

「子どもができると、子育てに追われ、自分の可能性がなくなっていくと感じることがあるんです。すると、自分も何かしたいという思い、エネルギーが爆発しそうになるんです」              

 幼い子どもを連れてでも海外へ留学したいと願う母親の気持ちを代弁するのは横浜市在住のフリーライター佐藤麻岐さん(34)だ。   

 佐藤さんは、三年前に四歳の長女を連れてオーストラリアに三カ月間留学した体験を「子連れで留学toオーストラリア」(社会評論社)と題する本にまとめた。子どもを連れて留学するとなると、保育園や学校の手配、宿泊先の確保など課題は単身で留学するより多くなる。それでも、「子連れ留学」を手ごろな費用で支援する学校や、安い値段で長期滞在できるホームステイ先を紹介する機関も整ってきた。

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 残る夫 ズッシリ“責任”

 「子連れ留学」もいとわない妻たちが次々登場する傍らで、夫たちはどうしているのだろうか。佐藤さんは、その辺の実情をユーモアを交えて本に記している。

 「妻と娘がオーストラリアの空の下で新しい生活に心トキメかせている間でも、ダンナは一人”責任“の二文字をドッシリ背負い、毎朝、通勤電車に走らねばならぬ男30代サラリーマン。簡単に仕事を捨てるわけにはいかない中堅どころなのである」

 ICS国際文化教育センター大阪支店の力田正明さんは「海外旅行に出かける人が増加し、外国が身近になった。経済的にも恵まれ生活が安定してきたから」と既婚女性の留学が増えた背景を説明する。

 経済的、時間的なゆとりがあれば「わがままだ」と言われぬよう、あとは家族の理解を得るだけだ。「心配はかけるけど、迷惑はかけない」。佐野みさ代さんは、この言葉で家族の理解を勝ち取って、カナダ留学を実現させた。



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