Kyoto Shimbun 1998.9.11 気になるリポート

「路上の演奏にこだわる」ワケ

 夜の京都の繁華街。ほろ酔い気分の通行人を前に、アコースティックギター一本で熱唱し続ける「ストリートミュージシャン」たちがいる。時には、罵(ば)声を浴びせられ、酔っぱらいにからまれながらも、あえて路上を「ステージ」に選ぶのはなぜなのか。京都のストリートライブのメッカである京都市中京区木屋町通界わいを歩いた。

(社会部 渋谷哲也)


 無視や妨害つらいけど
 自分を伝えたい

通行人のリクエストにこたえて熱唱するストリートミュージシャン(京都市中京区河原町通蛸薬師上ル)

 「最初は、恥ずかしかった。通行人の視線も怖かった」。アルバイトで生計を立てている京都市左京区の男性(27)は週末の夜、ギターを手に木屋町に現れる。「酒も、バクチもしない。楽しみはこれ(音楽)しかない」

 オリジナルだけを歌う。「自分の言葉を伝えたい。コピーを歌うのなら、カラオケに行けばいい」「物乞(ご)いじゃないから金は受け取らない」。クールに答えた。

◆   ◆   ◆

 河原町通蛸薬師上ルではギターをアンプにつないで演奏する男性(29)の歌を座り込んで聴く会社員たちがいた。一人が携帯電話で、「長渕剛の曲をやってる。お前たちも来いよ」と連絡する。曲の間には客と話が弾む。「見ず知らずの人と話せるのが楽しい」

 自作の曲を歌い続ける若者は「オリジナル曲は不利だな」とぼやく。集客力では、知名度の高い曲を演奏するミュージシャンに軍配が上がるようだ。

 元立誠小学校前の高瀬川の橋上では、二人組の若者がオリジナル曲を熱唱していた。

 リードボーカルの大学生藤田朝陽さん(23)=中京区=は「ストリートライブの魅力は、音楽を通じて友だちの輪が広がることかな」と話す。最近も、付近で活動する五人による合同ライブを京都市内のライブハウスで開いた、という。

 新たな出会い求め

 昨年春、演奏中の藤田さんにギターを持った一人の青年が声を掛けた。「横で演奏してもいい?」。今はリードギターを担当する専門学校生の佐野義智さん(23)=大阪市=だった。バンド名も付け、週末の夜に二人で活動を続けている。

 人前に立つ恥ずかしさ、無視されても歌い続ける忍耐強さ。路上という「ステージ」は、聴く人の反応がすぐに感じとれる厳しい世界だ。加えて、通行人や店からの騒音苦情や、酔っぱらい客の演奏妨害など「障害」も待ち受けている。

 フォークに打ち込むの藤田さんは「ビルの窓から生卵を投げつけられたこともある」と語る。スカウトから声を掛けられ、メジャーデビューの期待を胸に誘いに乗ったが「飲み屋の演奏係に呼ばれただけだった」という経験もある。

◆   ◆   ◆

 最近の京都のストリートライブについて、木屋町通の飲食店店員(41)は「演奏の『素人さん』が増えた。通行人をうならせる前に自分に酔いしれている感じを受ける」と手厳しい。

 「ワタナベ楽器店」(中京区)の吉田弘樹さん(28)は「尾崎豊やミスター・チルドレン、最近ではキンキ・キッズなどの影響で、アコースティックギターを購入する若者が年々、増えている」と話す。

 吉田さんは「『ギター一本、路上でどこまで勝負できるか』というプロ根性を持った人をあまり見かけなくなった」という。確かに「ライブハウスにも出ているが、ストリートは練習に丁度いい」と話すミュージシャンもいた。

 アコースティック音楽への関心の高まりで、以前に比べ聴く側の反応がよく、演奏する側がストリートライブに飛び込みやすくなったのかもしれない。

◆   ◆   ◆

 今、横浜市伊勢佐木町の路上では、日曜の夜になると、数百人の若い女性が今年、デビューしたフォークデュオのライブに集まる。デュオのメンバーは「路上は客との生勝負」「必死さが大切」と話しているといい、ストリートライブを活動の原点と考えている。

 そんなストリートミュージシャンを京都で見つけたら、ギターケースにお金を入れてもいいな、と思う。

ギター1本夜をゆく



▲INDEX▲