「最近の大学生は元気がない」という声をしり目に、会社員や主婦、お年寄りといった社会人が、さっそうと大学へ通うケースが増加し続けている。昨春、京都に新設された、社会人を受け入れるシティーカレッジにも、予想の倍を上回る人々が登録した。なぜ社会人学生は増え続けるのか。動機や本音、その社会的背景を探ってみた。 (洛西総局 藤岡敦子)
講師の目の前で、熱心にメモを取るのは三重県に住む会社員中尾憲一さん(53)。「多くのことを学びたくて、休日を利用し受講している」と話す。自宅から約一時間半をかけて通っているが苦にならない。「新しい世界が広がるし、仕事以外の友人ができるのもすごく楽しい」。滋賀県草津市在住の会社員浅香剛さん(53)は、「大学教授から気軽に、専門的なことを学べるのが魅力。久しぶりに学生に戻った気がする」と声が弾む。
府内の大学の情報拠点、 京都・大学センター(同志社大学新町校舎内)によると、昨年度、府内三十七大学・短大に入学・受講した社会人は約三千八百五十人にのぼった。 同センター事務局の樋上誠主幹は背景について「ここ三年間ほど、著しく増えている。生涯学習という考え方が浸透したことや、働いてからも、より専門的な能力をつけたいという人が多い」と分析する。それに少子化の波を受けて生き残りをかける大学側が、門戸を広げて社会人の受け入れを積極的に進めてきたことも大きい。 社会人入試も今年度は府内の二十六大学・短大で実施された。文部省大学入試室によると、社会人入試を実施した大学(四年制)は五年前の九三年には百八十二大学にとどまっていたが、九七年度の入試では二百八十八大学と右肩上がりの増加を見せている。
京都市に住む石井琴子さん(29)は、社会人入試を受けて大学へというUターン組の一人。短大を卒業後、会社に就職したが、休暇を利用した東南アジア旅行で、その経済発展に目を奪われ、「もっと体系的に勉強したい」と会社を辞め、昨春、立命館大学の経済学部に入学した。 授業に加えてコンピューターなども学んでおり、「将来は企業の海外業務部門で働くか、ベンチャー企業を起こしたい」と夢を膨らませる。 「より社会人の学習ニーズにこたえよう」と、今年度から同センターに加盟する大学が始めたシティーカレッジには、当初の予想を倍上回る約六百人が押しかけた。なかには宮城県や香川県から応募する人も。府内の二十八大学・短大から提供された科目を自由に選ぶことができ、しかも単位を取得できることが魅力だ。昼と夜どちらの講義も受けられる昼夜開講制、公開講座などもあり、社会人にとってさらに選択の幅が広がった。
行政側も、生涯学習の一環として力を入れている。府と京都市が共同で設置した「京都・大学センター」で大学の資料を展示し、電話相談も受け付けている。このほか「社会人のための大学・短大ガイド」の作製や、「社会人のための大学入試フェア」を開くなどガイド役をこなしている。
生涯学習に関する著書も多い佛教大学の西岡正子助教授は社会人学生について、「自分自身の生き方を自分自身で選択するようになったこともあり、社会人学生はますます増えていくだろう」とみる。ただ、「今は趣味を広げようと受講する人が多いが、どれだけ転職などに生かせるようになるかが、これからの課題」と指摘する。 「社会人学生は非常に熱心で、学生にも教授にもいい刺激になる」と語るのは、同志社大学の郡嶌孝経済学部教授。社会人学生は社会と大学を結ぶ存在として、両者を活性化させる大きな力となりつつある。 |