座席も完備 若者も集い
串カツ、串焼き、生キャベツ…。大阪の定番だった「立ち飲み屋」が京都で目立ってきた。中年の男性サラリーマンだけでなく、女性や若者も呼び込もうと座席もある「新京都スタイル」を提案する店も。手軽な値段で、隣の見知らぬ人とも仲良くなれる気楽さが受け、のれんの向こうは活気でにぎわう。懐石料理など高級志向ともいわれる京の夜に変化が出ている。
「風呂に入る感覚で」
京都市下京区仏光寺通室町東入ル、「ぴん」の引き戸を開けると、長いカウンターが奥に広がる。立っているのは、男性サラリーマンだけでなく、若い女性や学生の姿も。プロ野球・阪神戦の中継テレビを見ながら、にぎやかに応援している。隣にはテーブル席もあって、夜の食事を楽しむカップルの姿もある。「サラリーマン時代に自分が行きたいと思っていた店を作りました」。昨秋脱サラし、今年4月に開いた店主の白波瀬昌義さん(40)は、手順良く串を焼きながら微笑む。
立ち飲み屋を開いたのは、白波瀬さんが17年間、文房具販売会社に勤めたサラリーマン経験が大きい。京都勤務を経て、最後の1年間は大阪市へ転勤した。「駅近くに必ずといっていいほど、立ち飲み屋があったんです。その日のうれしいことや嫌なことを、家に帰る前にちょっとビールを飲んで気分転換する。ビール2本飲んであてを頼んでも1000円ぐらいでした」。京都ならちょっと飲んで食べたら3000円、4000円する。後輩におごろうと思っても、毎日はできない。気軽にのどを潤おすことができる立ち飲み屋の魅力を感じた。
「大阪の立ち飲み屋のような店を四条烏丸で開きたい」。もともと温めていた自分の店を持つという夢が後押しし、立ち飲み屋を開くことにした。同じ開くのなら、若い女性や学生も気軽に入れる「京都風」スタイルを作ろうと、座敷やテーブル席も用意した。メニューも立ち飲み定番の串焼き(2本200円〜)生キャベツ(150円)魚肉ソーセージの炒めもの(300円)などに加え、1人鍋やおにぎり、サラダなど晩御飯メニューもそろえた。週に一度は友人と訪れる加藤彩さん(26)=京都市右京区=は「立ち飲みは初めてでしたが、安いし、隣の人とも気安く話せて楽しい」と話す。白波瀬さんは「毎日入るお風呂のような感覚で、この店でほっこりしてくれたら」と目下、店の名物を作ることが目標だ。
チェーン店化も
立ち飲み店など居酒屋が多く集まる阪急西院駅にも若者向きの立ち飲み屋「印」が昨秋オープンした。店員の平均年齢24才。活気があふれた雰囲気で、女性客だけで満席になることもあるという。経営者の印牧弥徳さん(31)は「隣あった人と友だちになれるのが立ち飲みのいいところ。学生さんも年金暮らしのおじいさんも、年齢層関係なく飲みにきてほしかった」と話す。今月17日に大丸京都店近くに2号店を出店する予定。年内には京都市内で5店舗開店を目指す。このほか京都府宇治市内でも立ち飲み屋が2件オープンするなど、各地域で広がりが出てきた。
歴史の浅い京都
立ち飲み店は大まかに分けて、酒屋で買った商品を店内ですぐ飲むスタイルと、大阪の駅でよく見られる立ち飲み居酒屋の2つがある。酒屋ですぐ飲むスタイルは、戦中戦後の統制令を経た昭和27〜28(1952〜1953)年ごろ、市内の酒小売店で始まった。96年にコンビニへ営業形態を変えるまで、40年間、酒小売り店の一角でビールや酒を飲む人が絶えなかったという中村正子さん=中京区=は「店の奥の台所で飲んではりました。みなさん『お腹に入れて持ち帰る』いうて。飲みたい人は毎日飲みたいから、手軽な値段がよかったんでしょう」と振り返る。
だが今、京都で広がりつつある「立ち飲み居酒屋」の歴史は、50年以上の歴史を誇る大阪と違い、まだまだ浅い。京都市内で最初に始めたとされている四条河原町近くにある居酒屋「たつみ」(中京区裏寺町四条上ル)。経営者の谷口達男さん(53)は「前の店から名前を変えた1973年に始めました。今と違い、店が狭くお客さんの回転を良くしようと立ち飲みを始めたんです」。見慣れぬスタイルに戸惑う客もあったというが「立って飲むのもええ」と、当初からの常連客もいるという。京都風の立ち飲みスタイルの出現に「立ち飲みというユニークさがいいのでしょうか。増えてうれしい」と目を細める。
肩ひじ張らず気楽な店を
立ち飲み屋がなぜ増えてきたのか。路地の赤提灯を紹介する「京都大衆酒場」(青幻舎刊)を編集・執筆した日沖桜皮さんは「京都で食事といえば、懐石や京料理といった高級指向が根強く、大阪ではやっているような大衆酒場(立ち飲み屋)は、あまり相手にされなかった。だからこそ余計に、肩ひじ張らずに気楽に飲める店を求める人も、実は多かったのだと思う。不景気の後押しもあってか、そうした希望が急増し、ようやくそれに応えるように、京都にも立ち飲み屋ができ始めた。特に、若者向けの新しいスタイルの立ち飲み屋が目立つ。それが、千有余年の都・京都に定着していくのか否か、見守りたい」と話している。
写真=頭上にあるテレビで阪神戦を見つめる女性客。わきあいあいとした雰囲気だ(京都市下京区仏光寺通室町東入ル・ぴん)
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