探訪 京滋の庭
藤井彦四郎邸(滋賀県東近江市)
▼MEMO

近江商人のもてなしの心伝わる

写真
琵琶湖の形をまねたという池が広がる庭園(滋賀県五個荘町宮荘)
 広々とした邸宅の縁側を降り庭に出ると、眼前に琵琶湖を模したという池が広がる。薫風がそよぐ園内では、日差しに誘われようにヒバリがさえずり、池のコイが水音を立てる。旧藤井彦四郎邸は、近江商人のふるさと滋賀県五個荘町の、のどかな田園にたたずむ。

 1876(明治9)年、この地に生まれた藤井彦四郎は、人絹や毛糸の輸入製造販売を手がけ、一代にして莫大(ばくだい)な財をなした。自らは京都市左京区鹿ヶ谷に住み、この家は客をもてなす別邸として、生家の隣に1934年に建てた。

 池の周囲には、大小の灯ろうや巨大な岩、テーブルに利用したという珍しい逆三角すいの石などが配置されている。広さは800坪もある。松やツツジ、サツキ、モミジなどの木々を配した庭は、初夏の新緑、晩秋の紅葉、冬の雪化粧など四季折々の情景が楽しめるという。木々の間からは、西にきぬがさ山、南に箕作山が穏やかな借景を見せる。

 散策を楽しむための泉池回遊式庭園として、彦四郎自身が庭造りを監修したという。池の全景が見渡せるように、南側に小高い丘を築くなど、客人に琵琶湖や近江の自然を知ってもらおうとした彦四郎の意匠が伝わってくる。

 邸宅は一九八〇年、町に譲られ、町歴史民俗資料館に生まれ変わった。全国から年間約九千人の観光客が訪れる。資料館では、商家で使われていたそろばんや大福帳などの商売道具を常設展示しているほか、「ひな人形展」など季節ごとに企画展を開催している。

 建物は97年、国の登録文化財になった。今年3月、県指定文化財に指定されたのを機に、4月から庭も一般公開することになった。

 坪田保治郎館長は「この庭からは、富や財力を誇示するのではなく、客人を心からもてなそうとした先人の知恵がうかがえる。失われつつある近江商人の美学や理念に、思いをはせてほしい」と話す。

【2001年5月16日掲載】


▲INDEX▲