探訪 京滋の庭
毘沙門堂(京都市山科区)
▼MEMO

ゆったり… 醸す清楚さ 心いやす

写真
飾らない清楚な晩翠園。秋には紅葉が池を照らす
 新緑がまぶしい5月下旬。洛東の古刹(さつ)・毘沙門堂の晩翠園(ばんすいえん)は、にぎわう他の観光地とはひと味違う、ゆったりとした時間が流れていた。「穴場」らしく、土曜にもかかわらず客足はぽつぽつ。「せかされるより、こうやって落ち着いて見たい。そうしなければ記憶に残らないでしょ」。京都市内の観光名所をまわってきた主婦がほほ笑んだ。

   毘沙門堂は天台宗五箇室門跡の一つ。晩翠園は、背景の稲荷山の水が注ぐ回遊式庭園で、江戸初期に造られた。約20メートル四方で、山門から本堂を通り、宸殿の北側にある。

 「心」の裏文字を形取った池があり、正面には高さ6メートルほどの観音堂、中央に中島、周りに座禅石、千鳥石、亀石などを配している。毎月、縁日の18日には、観音堂の扉を開け、灯りと線香を供える。

 「大きすぎると落ち着かない。嫌気のしない清楚な庭だし、自然の形で安心して見られる」と、大森行隼執事長。飾り気はない空間がほっとさせるのか、園を見渡す背中が自然と丸くなる。

 テレビで紹介されたこともあり、関東地方からの足を運ぶ客も多い。最近は若年層の割合も増えている。森川宏映住職は、携帯電話を介した事件に巻き込まれる最近の若者の行動に首をかしげながら、こう願う。「便利さばかり追い求めると、大きな落とし穴にはまってしまう。こういう庭の雰囲気に触れ、一時でも自分を振り返ってみてほしい」。

 寺では今春、観音堂の天井にできたハチの巣の一部を、樽(たる)に移して巣を増やしている。「ようけみつが採れたらお参りに来た人に味わってもらおうかな」と、ある職員。池が紅葉で赤く照らされるころ、訪れる人の心を癒(いや)すだけでなく、今年は味覚も楽しめそうだ。

【2001年6月6日掲載】


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