探訪 京滋の庭
白沙村荘庭園(京都市左京区)
▼MEMO

生涯かけ 最も大きな作品だった

写真
随所に置かれた石造物には、関雪の独自の美意識が表れている
 「私にとっては、庭を造ることも、画を描くことも一如不二のものであった」。日本画家・橋本関雪は、そう書き残した。住まいとした「白沙村荘」の庭園は、彼が30年の月日を費やし、生涯にわたって造り続けた最も大きな「作品」だった。自ら旅先で集めた石造物と木々、池の調和に独特の美意識が見える。

 銀閣寺道沿い。にぎわう観光地のそばに広がるが、一歩足を踏み入れると途端に静寂に包まれる。約1万平方メートルの広さの庭園は、どこから見てもそれぞれの風景が一枚の絵となるように造られたといい、さまざまな楽しみ方ができる。

 アトリエだった「古楼」の前に広がる池は、自然光がほどよく反射するように工夫して配置されたという。水面に落ち葉が漂い、ほとりにはたまたま訪れた色鮮やかなカワセミが静かに羽根を休める。茶室から池を望むと、石塔と木のバランスの妙に、時間を忘れて見入ってしまう。ギャラリー側の池のほとりに立つと、やさしい表情のお地蔵さんが何体も顔をのぞかせるユニークな風景に心が和む。

 関雪がこの地を見いだした大正期、付近は一面の水田だった。この地に一から土を盛り、木を植え、石造物を置いた。富田林八幡宮の七重層塔、多治見の寺の礎石、笠原の灯ろう…。「一つの物象を見た刹那(せつな)、これを書こう、そう感じたとき、すでに画はできている。石を据え、木を植えるのも同じ理合いでなければならぬ」。そう考えた関雪は「美しい」と感じたままを持ち帰り、配置し、中国美術の感性を融合した独自の世界を作りあげた。

 橋本関雪記念館の橋本妙館長は「関雪は、絵描きでありながら、すぐれた造園家でもあった。庭造りの常識にとらわれずに感覚に忠実に仕上げた庭は、どの作品より、彼のメッセージが詰まっている」と話す。観光客や関雪ファンばかりでなく、石造美術の研究者や造園家らも魅せられる庭園。これからの季節、石が真っ白な雪に包まれ、また格別な世界をつくり出す。

【2001年12月5日掲載】


▲INDEX▲