探訪 京滋の庭
宝泉院(京都市左京区)
▼MEMO

季節ごとの表情の違い楽しむ

宝泉院
書院から庭を望むと、映画のスクリーンのような風景が広がる
 観光客であふれる大原・三千院から少し奥まった場所に、ひっそりとたたずむ宝泉院。声明(しょうみょう)の音が響く廊下を進み、書院に足を踏み入れると、三方に自然のパノラマが開ける。柱と柱で区切られた空間から庭を望める「額縁庭園」として知られる。書院に障子はなく、外からの風が肌で感じられて開放的な気持ちに満たされる。

 南側には、京都市の天然記念物に登録されている樹齢500年以上の富士山型のゴヨウマツがそびえる。また、東側に目をやると、池の形を鶴、石を亀、サザンカの古木を蓬莱(ほうらい)山に見立てたこじんまりとした「鶴亀の庭」が広がっている。

 「借景の庭」である西側の庭を観賞するため、赤いもうせんに腰を下ろす。手前にはキキョウが咲き、左手にカエデ、右手に桜と梅、その後ろには静かにそよぐ竹林がバランス良く並ぶ。背景に広がる山や民家などありのままの自然の風景も、庭の一部として溶け込んでいる。

 造られた年代や作者は不明だが、計算し尽くされた風景には「美」へのこだわりが感じられ、眺め続けても飽きることがない。春は桜、秋はモミジが美しく、冬の雪景色も格別で、季節ごとに表情の違う庭を楽しむことができる。

 耳を澄ますと、かすかに、涼しげな音が聞こえる。庭園観賞をより楽しむために作られた「水琴窟(すいきんくつ)」だ。2つのつぼを使って2種類の音を楽しむもので、片方は「理性」、もう片方は「知性」を表現しているという。高さの違う音同士が調和して響き、心をなごませる。

 「ここに座って庭を見るとホッとする、というお客さんが多いんですよ」。藤井宏全住職(49)の勧め通り、庭から一番離れた場所から観賞してみる。夕方近くなると、薄暗い書院内に光が射し込み、映画のスクリーンのような光景と陰と陽のコントラストが幻想的だ。「嫌なことが頭から消え、心がいやされませんか」と藤井住職。

 庭の名称は「立ち去りがたい」という意味の「盤垣(ばんかん)園」。訪れたとき、書院に座っていた2人の女性は、取材を終えるころにも同じ場所で、ずっと庭を眺め続けていた。

【2002年9月28日掲載】


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