保津峡走る列車の中

  読書や試験勉強

   ぜいたくだった4年間


 齋藤  晃さん(ゲームデザイナー・横浜市)



 京都から亀岡へと通学した四年間、保津峡を抜ける当時の国鉄山陰線の風景は今でも克明に思い出されます。四年前、私が電車運転のシミュレーションゲームを企画したとき、まず採用を決めたのが古い路線を基にした「嵯峨野線」でした。電化される前は、風景や駅舎の美しさから映画やドラマのロケーションとして使われていた有名な路線でもありました。

トンネルを抜けると一気に亀岡市内が視界に。右手には保津川がゆったりと流れ、中央には田園が広がる
 しかし、それ以上に私にとっては重要な意味合いがあったように思います。京都駅を出て古い街並みを抜け、嵯峨を過ぎトンネルを抜ければ、一気に景色は変ぼう、保津峡の雄大な風景が広がります。保津峡を走る列車は日常生活と大学生活を渡す区切りであり、心の切り替えの空間、読書や試験勉強の貴重で、ぜいたくな時間であったと今さらながら思います。

 仕事で横浜に移り住み十四年になりますが、あのような時間と心のゆとりは今では望むべくもなく、亀岡で過ごした四年間が、余計に重要なものに思えるのでした。最近ようやく分かってきたのです。亀岡や保津峡への憧憬は、単に学生時代への郷愁だけではなく、もっと大切なものがあったからだということに。それはゆったりとした、心持ちの良い生活のリズムであり、少し足を伸ばせば近くに自然があるというぜいたくです。

 私は出張や取材で各地の地方都市に出かける機会が多いのですが、どの街でも車での移動なら三十分で事足ります。そして、生活に必要な機能がすべてそこに集約されています。通勤に片道二時間も三時間も浪費する事がむなしく思えます。生活に必要なものがそろい、小回りがきく暮らしという意味では、一番適した街のサイズだと思うようになりました。

 それでも、若い方はショッピングなど欲しいものが手に入らないと嘆かれるかも知れません。しかしインターネットを活用すれば、アメリカからでも買い物ができる時代です。情報も物流も整備された現代では、大都市と地方の格差を感じる事はありません。むしろ、生活にゆとりの時間が持て、自然環境に恵まれた暮らしこそ、最大のぜいたくであり誇れるものだと思うのです。

 最後になりましたが、私の企画開発いたしました「電車でGO!」シリーズですが、今では新幹線から路面電車まで日本全国の路線をゲームにしてまいりました。しかし、そのなかで一番人気なのは、今でも「嵯峨野線」であることをご報告しておきます。(2001.11.4 掲載)

 さいとう・あきら 1964年京都市生まれ。京都学園大卒。1987年にゲーム、カラオケを手がけるタイトー入社。電車の運転をテレビ画面上で体験できるゲーム「電車でGO!」を企画。260万本を超す人気シリーズに。横浜市在住。

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