京都新聞:紙面特集

私の一碗 ──六十五碗 それぞれの想い──
茶道資料館(特集)

大徳寺呉器茶碗

大徳寺聚光院住職 小野澤虎洞さん
 箱書きから常叟(裏千家五代不休斎)が利休忌に菩提寺の聚光院に寄進したことがわかる

長次郎作 黒樂茶碗「面影」

千家十職 茶碗師 十五代樂吉左衞門さん
 幼い頃から慣れ親しんだ茶碗。光失せた黒い肌を水が包むと、魔法のように景色が変わるという

掌(てのひら)に抱く物語
茶人、政財界人ら愛蔵の逸品

 手から手へ─。茶碗には物語がある。作り手の心が託され、使い手の歴史をまとう。手にとれば優しい肌合いから土のぬくもりが感じられ、筆致も鮮やかな絵付に目を奪われる。一期一会の茶会、亭主愛蔵の茶碗でのもてなしは、集う人々の気持ちをつなぎ、一瞬の出会いをまたとない出会いにも昇華させる。

 茶道に心を寄せる京都ゆかりの文化人や政財界人が大切にする茶碗を紹介する秋季特別展「私の一碗─六十五碗 それぞれの想い─」が22日、京都市上京区の茶道資料館で始まる。

 しっくりと手になじんで愛着があったり、代々受け継がれてきた一碗、お気に入りの自作など、心を捉える理由はさまざまだ。千家十職の茶碗師樂吉左衞門さんは初代長次郎作黒樂茶碗「面影」(樂美術館蔵)が水で清められた時の魔法のような瞬間を思う。北村美術館の木下收館長は「京焼のちょっとひねった一碗を」と願った鳴瀧(なるたき)焼の銹絵(さびえ)茶碗を出品、「百八つ描かれた瓢(ひさご)とともに年越しの茶をいただく」楽しみに触れる。

二代小川長楽作 巴紋赤天目

一力亭 杉浦京子さん
 元禄時代、赤穂浪士討ち入り事件が起きたのは、二代目当主のころ。以来、現在まで十四代。縁の深い大石内蔵助の遺徳をしのび、3月20日の「大石忌」で、年に1度だけ大切に使う

 出品者それぞれの茶碗との出会いや何物にも代え難い魅力、心に残るエピソードをたどれば、一層味わい深く感じられる。「名品」でなくていい。心に残る一碗を手に取るぜいたくに思いをはせる。

案内
【会期】9月22日(木祝)~12月11日(日)
【開館時間】午前9時半~午後4時半 (入館は午後4時まで)
【会場】茶道資料館 (京都市上京区堀川通寺之内上ル、裏千家センター内)
【主催】茶道資料館
【共催】京都新聞
【入館料】一般1000円(900円)、大学生600円(450円)、中高生350円(300円)、小学生以下とメンバーシップ校は無料、かっこ内は20人以上の団体割引。※入館者に呈茶あり(無料)。
【問い合わせ】茶道資料館 TEL075(431)6474

伊藤公茶碗

藤井斉成会有鄰館名誉館長 藤井善三郎さん
 伊藤博文の手造り茶碗。交遊のあった仏文学者長田秋濤に与えられたものを衆院議員だった祖父藤井善助が譲り受け、愛用していた。指跡さえも残る

十二代永樂和全作 呉州赤絵茶碗

千家十職 土風炉・焼物師
十七代永樂善五郎さん
 和全が隠居後、愛知県岡崎の窯で造った茶碗。小ぶりで、特別な作意を感じさせず、手に取ると大変穏やかな気持ちになれるという。幼い孫娘と一緒に、この茶碗で一服をいただきたいと願う

五代宗哲手造 白筒茶碗「我が友」

千家十職 塗師 十三代中村宗哲さん
 朝夕の喫茶の楽しみとして、楽焼の土をもらい、40歳の時(1803年)に自ら削り造ったという。天明の大火にも罹災(りさい)し、苦労の多い時代を過ごしただけに、箱書きの「雪の日のこれや我友筒茶碗」の句も一層しみじみと感じられる。一度他人の手に渡ったが、大正15(1926)年に戻った

色絵金彩寿字文茶碗
「花の色」 堂本印象絵付

京都府立堂本印象美術館館長 三輪晃久さん
 父晁勢が師の堂本印象からいただいた茶碗。茶道具でも多くの作品を残す印象の自作で抽象表現の絵付がされている。銘は、親交のあった表千家十三代即中斎が箱書きに記した歌による

鳴瀧焼 銹絵瓢文筒茶碗

北村美術館館長 木下收さん
 京焼のちょっとひねった一碗を手にしたいとの思いが通じ、授かった茶碗。百八つの瓢(ひさご)とともに年越しの茶をいただくのが楽しみの一つ



橋本関雪絵付
関雪夫人ヨネ作 白茶碗「春霞」

白沙村荘橋本関雪記念館館長 橋本妙さん
 茶の湯を好んだヨネが手捏ねで形を作り、関雪が松の絵を描いた珍しい合作。夫妻の情愛を温かく感じることができる

【2016年9月21日付京都新聞朝刊掲載】