京都新聞:紙面特集

第4回 続「京都 日本画新展」
美術館「えき」KYOTO(特集)

大賞 上坂秀明「ナゾトキヤマ」
咲き競う才

 京に芽吹く日本画の俊才を奨励する第4回続(しょく)「京都 日本画新展」が18日、京都市下京区の美術館「えき」KYOTOで始まる。

 優れた日本画家を育んできた京都の地。伝統を受け継ぎ、現代の日本画を創造する若手を後押しするため、2008年に「京都 日本画新展」が創設された。14年、選考法と名称を改めてリニューアルした。

 今回は、推薦委員の有力画家5人(小嶋悠司氏は昨年6月に死去)が、京を中心に、滋賀などの38作家を選び、作品を委嘱。美術評論家や美術館関係者ら審査委員5人が、大賞1点と優秀賞2点を選んだ。展覧会では38人の清新な作品と、推薦委員の円熟した作品が競演する。

技法と感覚 密に結びつけ

講評 吉中充代
優秀賞 八木佑介「2016/05/13 2:32」

 底冷えの季節、今年も続「京都 日本画新展」が幕を開ける。今回で第4回、前身の「京都 日本画新展」からは9回目となる。

 本展の立ち上げから尽力してこられた小嶋悠司先生が、昨年6月7日、72歳で逝去された。展覧会に際して心よりご冥福をお祈り申し上げる。

 「京都 日本画新展」が始まった年、先生は母校でもある京都市立芸術大学の退任記念展にあたり、「彫刻家が石や鉄やテラコッタに生命を宿すように、私は天然の岩石を砕いた絵の具の生命の力を借りて画面に深く染み込む作品を描きたい」という言葉を寄せられた。学生時代から岩絵の具に離れ難い思いを抱き、日本画革新の道を歩まれた先生の思いが、質感量感を伴って伝わってくるのをあらためて受け止める。ご生前に先生は今回の作家推薦を果たされていた。会場には推薦委員として御作品が展示される。先生をしのびつつ、本展をみていきたい。

優秀賞 井手本貴子「来迎図」

 今回は5人の委員の推薦で38作家の作品がそろった。出品数は前回と同数だが、いよいよ多様多彩さを増してきたように感じられ喜ばしい一方、審査には相当の時を費やすことになった。票が分散しがちな中で当初から唯一過半の支持を集めた上坂秀明の作品を大賞に決定した。そして、審査の進行につれ支持の根が深く広いことを示した、井手本貴子と八木佑介の2点が優秀賞となった。

 大賞の上坂秀明「ナゾトキヤマ」には、まず人を立ち止まらせ、引き入れる力があるといえる。微妙な階調や滴りやにじみによって、視界を閉ざす深山のような空間が示唆される。空を見上げる若者の座像と、無垢(むく)な視線を投げてくる不思議な形の動物は、作者の日頃のドローイングの束から選ばれ、見知らぬ場所に放り出されてしまったという感じで、彼らの登場により正方形の画面は魔方陣のように息づいた。このように古画や伝統技法の学習と自らの体験や感覚を密に結びつけ応用できる作者の能力は推奨に値する。

 優秀賞の井手本貴子「来迎図」では、古いものの啓示と日常の心のふるえが断絶することなく自然につながり、包容力豊かな空間を見せてくれる。幻想的な来迎を陶俑(とうよう)や文様化された花など古くから伝わる人工の形状を借用して表すのに対し、遠景には浄土になぞらえてさりげなく木叢(こむら)が描かれ、イメージの源が自然にあることを感じさせる。同じく優秀賞の八木佑介「2016/05/13 2:32」は、題名の日時つまり深夜の道路の眺めを描く独自のシリーズの1点。岩絵の具、アクリルエマルジョンを用い、キャンバスにびっしりと点描を打つ。自然光のもとの色彩を鮮やかに表すためではなく、人工照明の演出する夜景を描くためだ。緩やかなカーブに誘う道には既視感があるが、それを逆手にとって作者は、暗闇を恐れ、未開を恐れ、この世に身の置き所を築いてきたわれわれ人間の軌跡を暗示しているように思われた。

合田徹郎「遊行狼」

 審査を終えてみれば、大賞の上坂秀明、優秀賞の八木佑介は本展初出品、さらに賞候補の合田徹郎、西田鳩子を含め初出品作家が17人にまで増え、出品の半数に届く勢いという。20歳代の出品者が過半数を占めることもあり、未熟な点も多いが、それぞれになぜ日本画を選び、描いているのかの訴えが、本展で見えつつあって興味をそそられる。受賞作品以外にも、会期中のギャラリートークなどで一つ一つが紹介されていくだろう。京都における若い才能の競演機会として、いよいよ貴重な展覧会となってきた。(京都市美術館学芸課課長補佐)


小林紗世子「穏当な二者」
田住真之介「無常 水の音」
西田鳩子「落日」
野上徹「名もなき森」
大野俊明「虹」
小嶋悠司「穢土」 1987年制作
竹内浩一「普賢」
林潤一「会津千歳桜」
村田茂樹
「沖縄より辺野古のらせん階段の家」
澤村はるな「春のはっぱサラダ」
梶浦隼矢「或る日の朝」
佐々木真士「ドワラカの寺」
中村貴弥「結晶山景図」
戸田香織「幽」
西川礼華「無知の雨」
山名しおり「懐かしさが
聞こえる記憶の破片」
秋野亜衣「Under
the Old Camellia Tree」
■出品作家
 秋野亜衣
 井手本貴子
 今岡一穂
 魚住侑子
 大嵜あすか
 岡田裕美
 尾花和子
 梶浦隼矢
 菅かおる
 北島文人
 上坂秀明
 幸田史香
 合田徹郎
 小林紗世子
 佐々木真士
 澤村はるな
 嶋岡みどり
 清水葉月
 霜下樹
 白川奈央子
 高谷英美子
 竹内茉利
 田住真之介
 釣谷梓
 寺脇扶美
 戸田香織
 外山寛子
 中村貴弥
 西川礼華
 西田香織
 西田鳩子
 野上徹
 馳平容子
 早田栄美
 福田寛子
 湊智瑛
 八木佑介
 山名しおり
■推薦委員
 大野俊明(京都市立芸術大特任教授)
 小嶋悠司(故人)
 竹内浩一(日本画家)
 林潤一(京都嵯峨芸術大名誉教授)
 村田茂樹(日本画家)

■審査委員
 尾﨑正明(茨城県近代美術館長)
 菊屋吉生(山口大教授)
 島田康寬(美術評論家)
 野地耕一郎(泉屋博古館分館長)
 吉中充代(京都市美術館学芸課課長補佐)
案内
【会  期】2月18日(土)~28日(火)
【開館時間】午前10時~午後8時 (最終日は午後5時まで) 入館は閉館30分前まで 入場無料
【会  場】美術館「えき」KYOTO(京都市下京区、ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
【主  催】JR西日本 京都新聞
【ギャラリートーク】2月21日=大野俊明▽22日=村田茂樹▽23日=林潤一▽24日=竹内浩一
【問い合わせ】京都新聞COM事業局事業部TEL075(255)9792

【2017年2月16日付京都新聞朝刊掲載】