アート新・古・今
京都の時空に遊ぶ《2》
 閉塞感ただよう世の中同様に、アートシーンもい まひとつ元気がない。それでも京都の歴史都市空間には、新しい芸術表現の種がまかれ、社寺の建築や庭園の造形、伝統文化が現代の美術表現のヒントともなっ てきた。そんな京都の時空を自由に歩いてみたい。
通崎好みinアサヒビール大山崎山荘美術館

音符をモダンにデザインした羽裏を生かした掛け軸や八木明の青白磁の花入れを前に展覧会の意図を語る通崎睦美さん。後ろはバーナード・リーチの「白化粧鉄絵青差駆兎文大鉢」
 アサヒビール大山崎山荘美術館は、大山崎町の名勝・天王山のふもとにある。大阪出身の実業家、故加賀正太郎が昭和初期に建てた英国風の山荘建築と、建築家の安藤忠雄さんが設計した新館「地中の宝石箱」とがつながる構造だ。山荘建物の方には、アサヒビールの創始者、山本為三郎が収集した河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチ、黒田辰秋ら民芸の巨匠たちの作品が重厚なしつらえの飾り棚などに展示され、地下コンクリート建築の「地中の宝石箱」にはモネの「睡蓮」の絵がかかる。新旧の建物や所蔵品の展示の対比に加えて、桂、宇治、木津の三川が合流する眺望、四季折々に変化する自然、さまざまな要素が響き合って、この美術館を魅力あるものにしている。 

 新旧、多様な魅力

 
山荘のタイル張りの浴室のタブにモザイクタイルのコイが泳ぐ山崎暢子さんの作品
新旧の建築空間とモネの「睡蓮」など多彩なコレクション。それらと国内外で活躍するアーティストとの出合いを通して現代の新たな表現を生み出すユニークな企画も続けられている。草や花を原寸大に精緻(ち)に彫った彩色木彫作品のインスタレーションで知られる須田悦弘が水に浮かぶ睡蓮の花や葉、尾形乾山の「百合図」と対比する形でつくったユリの木彫などの発表は今も記憶に鮮やかだ。そして現在開催中の「通崎睦美選展〜通崎好み」(20日まで、月休、有料)は、マリンバ奏者でアンティーク着物の収集と着こなしで人気の通崎さんに、白羽の矢が立った企画展。近年の美術館の展覧会の動向の一つにゲストキュレーターを迎え、美術館の所蔵品をもとに自由に展覧会を組み立ててもらおうという趣向がある。学芸員の専門知識に基づく企画にはないピュアな発想や切り口が生み出す美術や工芸品への誘い。「通崎睦美選展」も、そうした動きと無縁ではない。

 美術館の山荘建築が建った年代、モネがジヴェルニーの庭で睡蓮が咲き柳が映る水面をみつめ光と色彩のめくるめく変化を描き続けていた年代、そして通崎さんが数多く集めた銘仙などのアンティーク着物がさかんつくられた年代、それらに通じ合う「1920年前後」を共通項に、庶民の生活のなかから生まれ、一種の暮らしと心の改善運動であった「民芸」と、普段の暮らしの美にこだわる通崎さんの眼とを結びつける意図だった。

 「好みと言えば坐忘斎好みとか、茶の湯の世界ではおなじみですが、そういう好みは私にはおこがましいというか恥ずかしいので、自分のお気に入り、純粋に好きなものを選んで並べる。いわば『見立て』を見てもらうということで思い切りました。自分の好きなものでしか、人でも物でもかかわれませんから」と通崎さん。

 趣向ある「花の庭」

 以前から交友のある現代美術家にも声をかけた。美術館の山荘建築の方は、モネが色とりどりの花を咲かせ「絵の具箱」と呼んだ「花の庭」に見立てた。会場構成は谷本天志さんが協力。通崎さんの自身のコレクションと、美術館の所蔵品の中から選んだお気に入りの工芸品とを組み合わせた展示など、随所に趣向がある。通崎さんの両親が、大のファンだった画家の須田剋太や小磯良平に頼んで描いてもらった通崎さんの少女時代の晴れ着姿の絵と、そのときの着物が陳列されていたりもする。弘法さんで見つけたという、音符を描いたポップなデザインの羽織の裏地を赤い五線入りの表装にした掛け軸と、現代陶芸家、八木明さんの青白磁の可愛い花入れとを組み合わせた展示もあれば、男物の長襦袢(じゅばん)のたばこやパイプ、マッチの絵柄を生かした「禁煙」掛け軸に黒田辰秋の「彫文様マッチ入れ」とバーナード・リーチの「青磁釉彫絵灰落」を添え並べるなど、取り合わせを面白く見せる。赤と黒、薔薇、飛行機、格子模様などをテーマにした着物や小物、古美術の組み合わせにも、古いものと新しいもの、今の造形や感性とが交響してハーモニーを奏でる。

 
数万個の古ボタンで制作した戸矢崎満雄さんの「水の音」。モネの睡蓮の絵と呼応するかのように波紋のイリュージョンが広がる
老舗の協力を得てあつらえたオリジナル鼻緒の下駄(げた)の展示と、モザイクタイルを使う造形作家、山崎暢子さんの下駄のオブジェが対比されたり、浴槽に泳ぐタイルの錦鯉の作品もある。

 モネの睡蓮の絵が常設展示されている「地中の宝石箱」の空間は、モネの「水の庭」に見立て、現代美術家の戸矢崎満雄さんが30万個ものボタンのコレクションから数万個を印象派の色彩のタッチのように配置して、水面に広がる波紋のような美しいイリュージョンを公開制作で完成させた。モネの千変万化する光と色彩の世界と呼応するかのような無数のボタンの色と天窓からの光を受けた輝き。

 遊びとがんばりと

 1920年前後の着物や小物などに散りばめられた時代の色彩、現代のアーティストたちの感性の競演。京菓子司の主人がボタンやタイルをデザインした菓子をつくり、濱田庄司や河井寛次郎の角鉢に盛る展示もあれば、美術館のカフェで実際に試食できるアイデアも、これまた通崎好みの趣向だ。

 古いものと新しいものが今の感性や美意識で交差して生み出す遊びと新たな創造への精神。「楽しく遊ぶというニュアンスで展覧会は成り立っています。皆がんばっているけど遊んでいる。でも本当に遊ぼうと思えば、がんばらないと格好良く遊べない」と通崎さん。その緊張感とダイナミズムが美の温故知新を活力にした新しい創造の源になる。=敬称略

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