「発動 京都の工芸」

型染表現に新たな地平を開く
 染色作家 鳥羽美花さん
 02年度の京都市芸術新人賞のひとりである。このほど京都芸術センターで開催された受賞作家展には、鳥羽美花さん(1961−)の型染による大作が並び、充実した創作の一端を垣間見せた。

 鳥羽さんが、この10年間取り組んできたのはベトナムの風景である。赤土の大地、緑の熱帯雨林、湿潤な気候風土。度重なった戦乱から立ち上がり急速に経済発展をとげつつ変貌していくホーチミンやハノイの町。濃密な風景と熱気の中の落ち着いた暮らしが、鳥羽さんならではの伸びやかな構図と濃彩の色づかいによって息づく大画面が数多く生み出されてきた。

 昨年暮れ、ベトナム文化情報省の主催による鳥羽さんの個展がハノイの芸術展覧センターで開催され、大きな反響を呼んだ。多数のメディアが取り上げ、日本から来た女性作家が年月をかけ日本独特の型染技法を用いてベトナムの人々と同じ視線で失われてゆく風景を表現していたことへの感動と共鳴が広がった。

 ベトナムでの初個展の成功は、鳥羽さん自身も予想していなかった方向へと展開。ことしの秋には、日本とベトナムの国交樹立30周年を記念する展覧会として鳥羽さんの10年間の取り組みを再び紹介する展覧会「型染とベトナムの風景」が、ハノイのベトナム国立博物館で開催されることになった。ハノイの後はホーチミン市美術博物館でも開き、日本で帰朝展を開く計画も進んでいる。

 愛知県出身。京都市立芸術大学・大学院で染織を学び、型染に興味をもった。型染は、腰のある薄紙に柿渋を塗った紙に彫刻刀で模様や絵柄を彫り、それを型に用いつつ防染を施して染めていく技法。近代の創作染色の世界では芹沢ケイ介や京都の稲垣稔次郎らが明快な形体やシャープな輪郭などを生かした完成度の高い優美な精華を遺している。

 花や植物をモチーフにした型染を日展や新工芸展に出品していた鳥羽さんは、明快さを出すためにフォルムをそぎ落としていくという型染の定石に違和感を覚えて悩んでいたときベトナムを旅行、運命的とも言える出会いとなった。

 赤土の大地、熱帯雨林の緑、蛇行する赤い川の流れ、湿り気をたっぷり含んだ空気は、染めの発色に欠かせない蒸しの過程を思い起こさせた。「型染の技術があったからこそベトナムとの出合いがあり、10年間も続けることができたと思います」と鳥羽さんは言う。

 ベトナム国旗のような赤と黄色の鮮烈な色。熱暑でかげろうに揺れる町。経済復興と都市化の陰で失われてゆく仮設小屋密集風景や古い家並み。削ぎ落とした形体ではなく、ベトナムの風景の熱気や混とんとしたイメージを濃密な線描や色彩で描く鳥羽さんの型染は、ある意味では旧来の型染表現からの批判も覚悟の冒険であったと言える。ベトナムとの出合いは、鳥羽さんの創作に生き生きとした伸びやかさをもたらし、型染表現の新たな地平を切りひらく転機となった。

 日越国交樹立30周年の記念展は、10年の取り組みを回想する横幅5メートル余の新作大作数点も加えた大個展になる。

 「風景だけでなくこれからはメコン川の肥沃さがはぐくんできたベトナムの文化の深さや広がりを表現していきたい」と語る鳥羽さん。

 日本独特の型染をアジア的広がりの中で追究するさらなる挑戦が続く。

 写真上=「日本の型染とベトナムの風景。アジアの感性を再認識しています」と話す鳥羽美花さん
 写真下=「ダナンからの出発」など大作が並んだ受賞作家展(京都芸術センター)

 

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